福島第一原発の汚染水を薄めて海洋放出か?トリチウムの危険性について 2020年2月13日

  経済産業省の福島第一汚染水対策小委員会が2020月2日10日報告書をまとめ、「処理水」の海洋放出案に絞り込みました。[記事1]NHK 2020年2月11日21時33分

多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会 報告書(PDF形式:1,177KB)
https://www.meti.go.jp/…/commit…/takakusyu/pdf/018_00_01.pdf

原発事故当時、原子力防災特命大臣だった細野豪志がツィッターで
「微調整を経て最終報告書がまとまった。有識者会議なので細部にこだわる人がいるが、『海洋放出が現実的』との結論は変わらず。今度こそ政治家の出番。」と発言しています。2020年2月11日23:24pm[写真1]

細野豪志 ツィッター 2020年2月11日 23:24

小委員会の報告書、トリチウムの環境放出の安全性について、以下の議論をしています。根本的に間違った問題の建て方をしています。[写真2,3,4]

多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会報告書 2020年2月10日 表紙
多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会報告書 2020年2月10日 pp16
多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会報告書 2020年2月10日 pp17

ポイントを絞って批判します。

報告書 pp.16~17 全文抜粋 ※ ラインマーカーは編集者。
「トリチウムによる生物影響について
(放射線の生体影響)
シーベルト(Sv)は、放射線被ばくがヒトに与える影響の目安。
→物理的な放射線量を基に、「同じ影響が同じ数字になる」ように計算した数値。

●放射線の生体影響の有無や程度は、被ばく線量及び線量率に依存して決まる。
●確定的影響は、一定の線量(しきい値)以下では誘発されない。
●確率的影響は線量の増大につれて発生確率が増すが、100mSv を下回ると統計的に有意な増加は見られなくなる(自然発生頻度の変動の範囲内となる)。
放射線は DNA に損傷を与えるが、細胞には DNA 損傷を修復する仕組みが備わっている。
●DNA には普段から様々な原因で損傷が入っていて、その大半は速やかに修復されている。
→放射線による損傷がごくわずかであれば自然の事象との違いは見えない。

(トリチウムの生体影響)
●トリチウムは弱いベータ線だけを出すので、影響が出る被ばく形態は内部被ばく。
●国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告による預託実効線量(大人 50 年間、子ども 70 歳まで の被ばく)
トリチウム水(HTO): 1Bq 当たり 0.000000018mSv(1.8×10-8mSv)※1
有機結合型トリチウム(OBT):1Bq 当たり 0.000000042mSv(4.2×10-8mSv) ※2,3
※1 体内に取り込まれたトリチウム水のうち約 5~6%が OBT に移行するため、その影響も考慮した数値。
※2 OBT の生体内の半減期は、40 日若しくは1年程度の 2 タイプがある。それも考慮した上でトリチウム水と比較して 2~5 倍程度の影響。
※3 トリチウム化合物からの内部被ばく量は、類似した体内分布を示す水溶性の放射性セシウム(セシウム 137)と比較して 300 分の 1 以下となる。
●これまでの動物実験や疫学研究から、「トリチウムが他の放射線や核種と比べて特別に生体影響が大きい」という事実は認められていない。
・マウス発がん実験では、線量率が 3.6mGy/日(飲み水の HTO 濃度:約 1 億 4 千万 Bq/L 程度)以下で頻度、質ともに自然発生と同程度となっている。
・原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)によると、原子力関連施設の作業従事者のガン致死に関する、100mSv 当たりの過剰相対リスクは、原爆被爆者からの評価値と同程度であり、「トリチウムは他の放射線や核種に比べて健康影響が大きい」という事実は認められない。
・また、トリチウムを排出している原子力施設周辺で共通にみられるトリチウムが原因と考えられる影響の例は見つかっていない。
●日本における、個別の放射性物質の放出に係る規制基準値は、70 年間、毎日摂取する全ての水が当該放射性物質を含む水であった場合に、70mSv、つまり、平均して、公衆の被ばく限度である年間 1mSv となる濃度である。」

トリチウム汚染水の海洋放出を考える上で以下の資料を読まれると参考になる、と思います。是非、お読み下さい。
『放射能の基礎知識 人工放射能はなぜ危険か?』
内部被ばくを考える市民研究会資料
http://www.radiationexposuresociety.com/archives/6988

[批判1]味噌も糞もシーベルトは間違い

「 ●シーベルト(Sv)は、放射線被ばくがヒトに与える影響の目安。
→物理的な放射線量を基に、「同じ影響が同じ数字になる」ように計算した数値。
●放射線の生体影響の有無や程度は、被ばく線量及び線量率に依存して決まる。 」

について

シーベルト(Sv)という概念で、味噌も糞もいっしょくたにするのが、現在の放射線防護の考え方です。国際放射線防護委員会(ICRP)がシーベルト(Sv)への換算係数を決めています。国際放射線防護委員会(ICRP)は、かつてのアメリカの原子力委員会(AEC)が牛耳って作った組織です。アメリカが秘密裏に行ったプルトニウム注射人体実験などのデータをもとにした、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)の報告書をもとにしています。国際放射線防護委員会(ICRP)は、昔は「味噌も糞もシーベルト」ではなりませんでした。核種ごとに、人体の許容線量を決めていました。それが今では

(実効線量 [Sv]) = Σ(臓器 T の等価線量 [Sv]) × (臓器 T の組織加重係数)

預託実効線量(mSv) = 実効線量係数(mSv/Bq) × 年間の核種摂取量(Bq)
× 市場希釈係数 × 調理等による減少補正

という計算式で、シーベルトをもとめています。この実効線量当量という考え方は1977年ICRP勧告から導入されたものです。核種(セシウム137とかプルトニウム239とか)ごとの許容値を決めるのではなく、外部被ばくでは被ばくした臓器ごとに何シーベルト被ばくした、と数値を出して足す(上の式)。
核種(セシウム137とかプルトニウム239とか)ごとの許容値を決めるのではなく、核種の摂取量(ベクレル)に係数(ミリシーベルト/ベクレル)をかけて数値を出す。こちらも複数の核種を食べたり吸った場合は足してシーベルトを出す(下の式)。

より複雑な計算式を考えだすことで、国際放射線防護委員会(ICRP)は「放射能、これくらいは安全」という科学を作り出しました。この2つの式、以前から放射線の専門家だった方はおかしい、と感じているのに違いありません。人間は臓器と臓器の単なる寄せ集めではないし、甲状腺が被ばくしホルモンが正常に作れなくなれば体調が悪くなります。シーベルトで評価できるものではありません。骨髄がプルトニウムやウラン、ストロンチウム90で被ばくすればいつか白血病を引き起こします。 プルトニウムやウラン の核種は、呼吸によって取り込まれます。ホールボディーカウンターでもその存在は分かりません。つまり、そもそも何ベクレル体内に入ったかは生きている間は測定できません。死んだ後、死体から骨を取り出し分析することで、初めて、どれくらいプルトニウムやウラン、ストロンチウム90を取り込んだか、が分かります。ラジウムを発見し、研究用にラジウムをポケットに持ち歩いていたマリー・キュリーは再生不良性貧血で亡くなりました。患者に秘密のままプルトニウム注射して人体実験をしたジョゼフ・ハミルトンは、サイクロトロンで作ったばかりの核種を素手でつかんでいました。彼もまた白血病で亡くなりました。(アイリーン・ウェルサム『プルトニウム・ファイル 上』pp.19,20他)

 何ミリシーベルト被ばくしたら、白血病になる、というものではありません。白血病を引き起こす放射能を内部被ばくしたのかどうか、またX線で白血病を引き起こすレベル被ばくしたのかどうか、が健康被害を決めるのです。

[批判2]トリチウムはセシウム137よりずっと安全か?

「●放射線の生体影響の有無や程度は、被ばく線量及び線量率に依存して決まる」のではなく、まず、どんな核種に内部被ばくするか、次にどれくらいの量その核種に被ばくするか、で健康被害が推定できます。アメリカは秘密裏に1000件を超える放射能人体実験を行ってきましたが、結局、安全な許容線量は見つけることができていません。今分かっているのは、半分の人間ががんで死ぬ線量だけです。LD50(60)。これは50%の人間が60日間に死ぬ線量、という意味です。これは外部被ばくだけに当てはまるものです。内部被ばくには通用しません。内部被ばくはそもそも生きている間は測れないし、その核種がどの組織に沈着したのかは、外部からはほとんど分かりません。外部被ばくのX線被ばくと、プルトニウム239の呼吸により肺に摂取した場合の内部被ばくとを同列に、シーベルトで評価するのは無理があります。それを国際放射線防護委員会(ICRP)は、「同じシーベルトなら外部被ばくも内部被ばくも健康被害は同じ」と強弁しています。 ましてバナナ1本に13ベクレルある自然放射能のカリウム40も、この同じシーベルトで評価しています。「味噌も糞もシーベルト」は、核開発推進、原発推進派が考え出した科学です。「これくらいの放射能は安全」と市民をごまかすためのものでしかありません。これを編集者は「ミリシーベルト詐欺」と読んでいます。

「●トリチウムは弱いベータ線だけを出すので、影響が出る被ばく形態は内部被ばく。
(中略)
トリチウム化合物からの内部被ばく量は、類似した体内分布を示す水溶性の放射性セシウム(セシウム 137)と比較して 300 分の 1 以下となる。」
これは、原子力産業が核兵器開発の際にどうしてもトリチウムがトリチウム水の水蒸気となって出てしまうから、セシウム137の300分の1になるように、係数を小さくしたに過ぎません。この「 セシウム137の300分の1 」という係数は、国際放射線防護委員会(ICRP)が原子力産業の意向を「忖度」した結果です。

 アメリカが原爆を開発したマンハッタン計画当時から、放射性同位体の許容線量は一体いくつくらいか、を研究してきたカール・Z・モーガンはこう語っています。

「トリチウムをテロリストだと考えてみましょう。テロリストが自動車で時速128kmでマシンガンを打ちながら通ったとします。あなたの家に弾丸は10発以上当たらないでしょう。しかし、このテロリストが時速8kmで走った場合、あなたの家には何1000発もの弾丸が当たるでしょう。」と(『原子力開発の光と影』pp.154)

放射線生物学では、X線など放射線がDNAを傷つけるのは、直接DNAを切断するよりも、DNA近くの水分子をイオン化して出来るフリーラジカル(活性化された分子、遊離基)によるものが大きい、と習います。直接作用より間接作用が大きい、と言います。放射線が水分子に当たりフリーラジカルを作りますが、このフリーラジカルは水素を引き抜く反応性が高いです。DNAの二重らせん同士は水素結合しているので、DNAの近くにフリーラジカルが生まれると、DNAを結びつけている水素を奪い、DNAを切断します。これが放射線の間接作用です。[写真5]フリーラジカルと活性酸素、以下資料より[写真6]放射線の直接作用と間接作用

フリーラジカルと活性酸素の関係 【出典】アスタキサンチンの抗酸化作用 活性酸素とラジカルとは? ブログ 美しい大地と空の特許翻訳

〈参考〉
アスタキサンチンの抗酸化作用 活性酸素とラジカルとは?
https://translation-landsea.com/%E3%82%A2%E3%82%B9%E3%82%BF…

放射線(X線)の直接作用と間接作用

 トリチウムの出すベータ線が、そのエネルギーが小さいから安全だ、という専門家がいます。これは嘘つきです。その放射性核種が出した放射線は、フリーラジカルの集団(スパーやブロップという)を作ります。だいたいスパーというと、プラスイオン、マイナスイオンの3組を含むものを言い、ブロップの場合は12組を含むくらいを言います。それぞれの大きさは4nmや7nmです。このイオンの集団がDNAのすぐそばに出来ると、DNAを切断します。

※ nmはナノメートル)と読みます。1mmの1000分の1が1μm(マイクロメートル)、1μmのさらに1000分の1の大きさが1nm(ナノメートル)です。DNAの二重らせんは2nm(ナノメートル)しか離れていません。

スパーとブロッブとは?

 ベータ線しか出さない核種にはトリチウム、ストロンチウム90、イットリウム90などがあります。どれが一番危険なのでしょうか?出すベータ線の最大エネルギーはトリチウムが18.6keV(キロエレクトロンボルト)、ストロンチウム90が546keV (キロエレクトロンボルト) 、イットリウム90は2270keV (キロエレクトロンボルト) です。トリチウムの出すベータ線のエネルギーが極めて小さいことがわかります。

 正解はトリチウムが一番危険です。トリチウムが一番ベータ線のエネルギーが弱いため、スパーやブロップというフリーラジカルの集団が26ナノメートル間隔くらいにできます。ストロンチウム90は140ナノメートル間隔くらいで、イットリウム90は300ナノメートル間隔くらいにできます。DNAの二重らせんは2ナノメートルしか離れていないので、DNAを破壊するフリーラジカルという爆弾の集団は、トリチウムが同じDNAに一番密集して落とすことになります。DNAの二重らせんの間は2ナノメートル、トリチウムの落とす爆弾の間隔は26ナノメートルです。
[写真7]各種放射線のLETとスプール間隔

※ ここで言うスプールとは上記でいうスパーとブロッブとをまとめたものです。

各種放射線のLETとスプール間隔

 これがカール・Z・モーガンがテロリストが時速8kmでマシンガンを撃ちまくったら、家に何1000発もの弾丸が当たる、の意味です。

[批判3]人間にはDNAの修復する仕組みが備わっているから、ごくわずかの放射線なら大丈夫、は本当か?

「 ●放射線は DNA に損傷を与えるが、細胞には DNA 損傷を修復する仕組みが備わっている。
●DNA には普段から様々な原因で損傷が入っていて、その大半は速やかに修復されている。
→放射線による損傷がごくわずかであれば自然の事象との違いは見えない。 」

 人間にはDNAを修復するメカニズムがあることは本当です。しかし、「DNAが見かけ上、正常に修復される」ということと、「がんにならない」とは同じではありません。

こちらに詳しく書きました。

『大石雅寿氏の「福島安全論」神話。おしどりマコ氏、大石雅寿氏論座記事を名誉毀損と指摘。』
内部被ばくを考える市民研究会資料
http://www.radiationexposuresociety.com/archives/11050

 細胞の設計図であるDNAが放射線やフリーラジカルで切られた場合に、「欠失」が起こる場合があります。「放射線に特有なDNA損傷はない」とよく言われますが、実はこれも間違いです。「欠失」は放射線によるDNA損傷に特徴的なものです。

 放射線により、DNAが近い場所でちょん、ちょんと2箇所切られた場合に、それぞれ切られた部分同志が再び結合するのではなく、間のDNAの部分をすっ飛ばして結合する場合があります。これを「欠失」といいます。見かけ上「正常」なDNAなので細胞分裂ができ、生き残ります。しかし、この失われたDNAの部分に、抑制遺伝子があった場合、細胞は無制限にどんどん増殖するようになります。つまり、これががん細胞です。がんは、たった1個からできることが分かっており、放射線の大小ではありません。つまり、トリチウムならトリチウムに内部被ばくしたか、しなかったか、ががんになるかならないか、を決めるのであり、少ない量のトリチウムを内部被ばくしたからがんにならない、というものではありません。[写真8]放射線が引き起こす「欠失」。発がんの原因に。

放射線が引き起こす「欠失」。発がんの原因に。

 トリチウム(3H)、ストロンチウム90(90Sr)、イットリウム90(90Y)のうち、トリチウムのベータ線エネルギーが18.6keVと一番小さいです。だから、スプール(スパーとブロッブのこと)を短い間隔で作ってしまいます。従って、DNAをずたずたに壊す力が一番大きいのはトリチウムであることがわかります。実はこの各種放射線のLETとスプール間隔については、改訂第7版に掲載されていましたが、2012年発行のアイソトープ手帳改訂11版では削除されていて、掲載されていません。

「ごくわずかであれば自然の事象との違いは見えない」ではなく、疫学調査をすれば分かります。それも何ミリシーベルト被ばくしたか、否かではなく、トリチウムに被ばくした人とトリチウムに被ばくしなかった人とを比べればいいのです。

『壱岐市、白血病死亡率 玄海原発稼働後、約6倍に増加 2019年3月5日 壱岐新報』
内部被ばくを考える市民研究会資料
https://www.radiationexposuresociety.com/archives/11159

 上は、日本一トリチウムの放出量が多い、玄海原発の目の前の島、壱岐島で玄海原発稼働後、住民の白血病が6倍に増えた、という壱岐新報の記事です。これが疫学調査です。

[批判4]原子力施設周辺でトリチウムが原因の健康被害は出ていない、は本当か?

「また、トリチウムを排出している原子力施設周辺で共通にみられるトリチウムが原因と考えられる影響の例は見つかっていない。」と小委員会報告書は書いています。

 欧州放射線リスク委員会(ECRR)「2010年勧告」には、「被曝に伴うガンのリスク、第2部:最近の証拠」http://www.jca.apc.org/mihama/ecrr/chap11r.pdf という章があります。この中で、イギリスの核燃料再処理工場セラフィールド、フランスの核燃料再処理工場ラ・アーグ周辺で白血病や小児がんが多発していることが報告されています。これに対して、国際放射線防護委員会(ICRP)はこれほど少ない被ばくで白血病が起きるはずがない、と主張しています。理論(科学)が現実に起きていることを説明できないから、関係ないとICRPは言っているだけに過ぎません。ICRPのミリシーベルトの計算式と係数の方が間違っているのです。

 外部被ばくと内部被ばくの影響は同じ、とするICRPの科学はこの点で破綻しています。プルトニウム239が肺の中に28マイクログラムあれば100%肺がんを引き起こすことができます(ジョン・W・ゴフマン「人間と放射線」pp.413)。しかし、ここにはプルトニウム239の原子が5.8京個もあることになります。しかし、肺がん発症100%のプルトニウム239が28マイクログラムがからだの外にある場合、部屋のどこかにずっと何年もあっても、肺がんどころか皮膚がんを引き起こすことも不可能でしょう。ゴフマンは、ポットパーティクル(高放射能微粒子)の生み出す不均等被ばくを無視しているICRPを批判していました。

 外部被ばくと内部被ばくの健康被害は同じではありません。

 また、トリチウムは放射性水素であり、DNAに取り込まれやすい性質があります。トリチウムが安定な水素の近くに行くと、安定な水素とトリチウムとが一瞬にして交換されることがあります。DNA研究でトリチウムチミジン、という試薬が使われていますが、この同位体交換する性質を利用したものです。放射線生物学ではトリチウムがDNAに取り込まれやすいのは常識の部類にあたります。トリチウムは半減期12.3年であるため、少ない数であっても人間が生きている間に崩壊し、ヘリウムになります。これは元素転換と呼ばれる現象です。DNAの二重らせんは水素結合をしていて、ここにトリチウムが取り込まれるといつか崩壊します。水素がヘリウムに変わるのでDNAは切断されます。その崩壊エネルギーは小さいとは言え、DNAの結合エネルギーよりはるかに大きいので、DNAはずたずたになります。その細胞はDNAが修復できず、死にます。

 放射線により異常な死を細胞がとげると、その周辺の細胞にも、異変が伝えられます。バイスタンダー効果といい、ゲノム不安定性が周囲の細胞に引き起こされ、がんを生み出すこともあります。(ECRR2010年勧告pp.147)

 ICRPは、トリチウムの線量評価するのは際に、この同位体交換と元素転換によりDNAがずたずたに壊されることを評価に入れていません。出すベータ線のエネルギーが放射性セシウムよりずっと小さいことしか考慮に入れていません。また、ICRPはバイスタンダー効果も線量評価に入れていません。だから、トリチウムは60,000ベクレル/Lまで、川や海に捨てていい、という基準が出来上がるのです。

 問題はICRPの破綻した放射線防護モデルを使って、この福島第一原発の汚染水問題を考えることにあります。

 大事なのは「科学」が作り出したミリシーベルトという数字ではありません。原子力施設周辺住民の白血病や小児がんんの人数と健康被害の事実が大事です。

 経済産業省の「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」(福島第一汚染水小委員会の正式名称)では、イギリスの核燃料再処理工場セラフィールド、フランスの核燃料再処理工場ラ・アーグ周辺の住民の健康問題、玄海原発の目の前の壱岐島の住民の健康問題を一切議論していません。ただ「トリチウムを排出している原子力施設周辺で共通にみられるトリチウムが原因と考えられる影響の例は見つかっていない」との結論だけです。

  議論は尽くされていません。

  ICRPの放射線防護モデルが正しいのか?原子力施設周辺でどんな健康被害が起きているのか?議論するべきです。

[記事1]
福島第一原発のトリチウム水 報告書を提出
2020年2月11日 21時33分 NHK NEWS WEB

福島第一原子力発電所にたまり続けるトリチウムなどを含む水の処分方法について、経済産業省の小委員会は、先月示した「基準以下に薄めるなどして海か大気中に放出する方法が現実的で、海のほうがより確実に実施ができる」などとする案を正式に報告書としてまとめ政府に提出しました。

福島第一原発では、汚染水を処理したあとのトリチウムなどの放射性物質を含んだ水が毎日発生し、現在1000近くのタンクにおよそ120万トンが保管されています。

この処分方法について検討してきた有識者でつくる経済産業省の小委員会は、先月31日、薄めるなどして基準を下回る形で海に放出する方法か蒸発させて大気中に放出する方法が前例もあり、環境や健康への影響もほとんどなく現実的だとし、このうち、海のほうがより確実に実施ができるとの報告書案をおおむね了承していました。

その後、委員からの意見の反映や文言の修正などを行い、10日正式な報告書として政府に提出されました。

報告書には、追加で、海と大気の両方を実施する方法にも触れ、管理する設備が多くなりトラブルの可能性が大きくなるなどの分析を加えています。

今後、経済産業省は、地元などの関係者から意見を聞く方針です。

そのうえで、最終的には政府が決定しますが、時期のめどは示されていません。

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