福島第一原発事故後の甲状腺がん 原発事故当時高校の世代で甲状腺がんが多発しているのではないか?25歳時の節目検査をやめ、20歳以上は毎年の甲状腺検査をやるべき(その1)           2020年6月13日  内部被ばくを考える市民研究会 川根 眞也

福島第一原発事故後の甲状腺がん 原発事故当時高校の世代で甲状腺がんが多発しているのではないか?25歳時の節目検査をやめ、20歳以上は毎年の甲状腺検査をやるべき
(その1)

                          2020年6月13日

                          内部被ばくを考える市民研究会 川根 眞也

(1)はじめに

 福島県で先行検査116人、本格検査2回目71人、本格検査3回目30人、25歳時の節目検査4人、計221人もの小児甲状腺がんの患者が出ています。しかし、日本政府も福島県も特定の年代の子どもたち全員をスクリーニング検査したことによるものであって、原発事故の放射能の影響ではない、と強弁しています。

小児においても甲状腺超音波検査による早期診断が甲状腺がんのその後の臨床経過を改善するとするデータは存在しないが、成人に比較して 症例数が少ないため十分な検討がなされているとは言えない。しかし、20歳未満の甲状腺がんの予後は、他の臓器のがんに比較してきわめて良好な予後を示す成人の甲状腺がんと比較してもさらに良好であり、長期経過を観察したデータでもがん死する症例は1-2%とまれである(Ito Y Y. Endcr J 59: 539 -45, 2012 他)。したがって、小児においても超音波検査による早期診断が 甲状腺がんの死亡率低下に寄与する可能性は低い 。   -第10回甲状腺評価部会 資料4-1 【髙野部会員・祖父江部会員資料】県民健康調査における甲状腺超音波検査の倫理的問題点と改善案 2018年7月8日

 朝日新聞・論座やSYNODOSなどで行われている、「甲状腺がんのスクリーニング検査はメリットよりデメリットの方が大きい」という議論の一端がこの文章にも現れています。まず、原発事故後の小児甲状腺がんの多発を(1)成人における甲状腺がんと同様に扱う (2)子どもの甲状腺がんは良性のものが多く、将来に渡っても遠隔転移などしない (3)福島の子どもたちの被ばく線量はチェルノブイリの子どもたちと比べても非常に低く、がんを発症するほどではない などです。

 2017年11月30日から福島県民健康調査甲状腺評価部会の委員をつとめている髙野徹氏(大阪大学大学院 医学系研究科 内分泌代謝内科学 講師)は、さかんに甲状腺がんのスクリーニング検査が過剰診断であり、子どもたちが“がん患者”であるというレッテルを貼られることで、進学、就職、結婚、出産においてハンディを負うことになると主張しています。髙野徹氏が2019年に日本リスク研究学会誌に発表した「福島の甲状腺がんの過剰診断―なぜ発生し、なぜ拡大したか―」には、彼の認識の不十分さが明確にあらわされています。

甲状腺がんは予後が良く,かつ甲状腺超音波検査は高精度であるがゆえに無害ながんの検出率が高 く,その弊害も大きい。   それが最初にわかったのは韓国で甲状腺がん検診の普及によって発生した成人の大規模な過剰診断である。「転移していても治療してはいけないがんが存在する」「無症状な対象者に対する甲状腺超音波スクリーニングは有害である」これらは現在では科学的に証明された事実である。   多くの専門家は潜在性の甲状腺がんが若年者に高頻度で存在するという認識を持っていなかった。 事実,「甲状腺癌は幼少期に既に発生している」との記載は最近まで我々以外の研究グループの論文 では見られていない。→髙野徹氏らが「甲状腺癌は幼少期に既に発生している」を発見したと主張。   UNSCEAR(国連科学委員会)をはじめとした多くの国内外の専門機関が福島で発見されている甲状腺がんは放射線由来のものである可能性は低いとの結論を出しており,県民健康調査における中間取りまとめでもこれらの見解を踏襲している。この前提に立てば,福島で検出されている甲状腺がんの過去の罹患率との差は甲状腺超音波検査を施行したことによって過剰に検出されたものである。   ―髙野徹「福島の甲状腺がんの過剰診断―なぜ発生し、なぜ拡大したか―」日本リスク研究学会誌,2019年,28(2): 67–76

 さらに驚くべきことに、チェルノブイリ原発事故で多発した小児甲状腺がんについても、過剰診断の症例が含まれていたと主張しています。

チェルノブイリ原子力発電所事故後,周辺地域では若年者を対象とした甲状腺超音波検査によるスクリーニングが行われ,数千人に及ぶ甲状腺がんの患者が見つかりその多くが手術を受けている(Demidchik et al., 2007)。しかし,現在ではチェルノブイリにおいては確かに放射線が原因のがんの 増加はあったものの過剰診断の症例もまた含んでいたと考えられている(Jargin, 2011)。   ―髙野徹「福島の甲状腺がんの過剰診断―なぜ発生し、なぜ拡大したか―」日本リスク研究学会誌,2019年,28(2): 67–76

しかし、髙野徹氏が、チェルノブイリでも過剰診断が起きていたとして引用した論文Sergei V. Jargin , 2011年を読むと、たった4ページ、それも2003年に放射線のホルミシス効果を研究する雑誌として創設された、International Dose Response Societyという雑誌に掲載された論文でした。参考文献もほとんどが西側の科学者によって書かれたものです。または国連科学委員会UNSCEARのものです。なおかつ、Sergei V. Jargin は、同論文の中で、アレクセイ・V・ヤブロコフ氏らの労作『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』の一部分、第6章 チェルノブイリ大惨事以降の腫瘍性疾患だけを取り出し、原発事故による健康被害を過大評価していると名指して批判しています。ヤブロコフ氏がソ連の科学者にテーマを割り当て、「期待される結果」を導き出したと批判しています。しかし、Sergei V. Jargin は、その批判の根拠を何一つ示していません。もはや誹謗中傷のレベルです。興味深いことに、Sergei V. Jarginはこの論文(論文の体裁をなしていない)で、チェルノブイリ原発事故の被害を強調することが世界の原子力発電の発達を阻害した、とも書いていることです。チェルノブイリ原発事故の小児甲状腺ガンのスクリーニングとその後の手術が正しかったのか、どうかよりも、世界の原子力発電の運転や増設に興味がある人物のようです。この論文を読んでも、どこに「チェルノブイリにおいては確かに放射線が原因のがんの増加はあったものの過剰診断の症例もまた含んでいたと考えられている」と考えられるデータや分析が分かりませんでした。

<参考>THYROID CANCER AFTER CHERNOBYL: OBFUSCATED TRUTH Sergei V. Jargin International Dose Response Society 2011年

 一方、ベラルーシで子どもたちの甲状腺疾患の診断と治療に勢力的に働かれたエフゲニー・P・デミチック博士、ユーリ・E・デミチック博士は、こう論文に書いています。Thyroid cancer in Belarus  Evgueni P. Demidchik  Yuri E.Demidchik  ほか 2002

1986年4月および5月にかけて起きたチェルノブイリ事故は、放射線に被ばくした18未満の年齢で1500人に甲状腺がんの発症を促しました。悪性腫瘍は、主に乳頭ガン(93.5%)でした。 1990年から2000年までの期間の間、甲状腺がんは、子どもたち(15歳未満の年齢層)674人、青年(15~19歳の年齢層)262人、そして、若者(19~33歳の年齢層)564人から見つかりました。   小児および青年の甲状腺がんは、チェルノブイリ原子力発電所のより近くにあるゴメルとブレスト州でもっとも多く見つかりました1986~2000年の15年間で、放射線由来ではない自然の甲状腺がんは、17人の子どもたちだけでした。   子供たちの放射線によって誘発される甲状腺ガンは、甲状腺周囲に転移している場合が73%、遠隔転移している場合が16.6%でした。遠隔転移したのはは主に肺でした。18未満の年齢層で被ばくした集団のリスク解析の結果、以下のリスク係数が算定されました:絶対リスク係数10,000人年グレイあたりは1.93(1.79–2.06)と過剰な相対リスク係数はグレイあたり37.66(35.06–40.26)です。   The Chernobyl accident in April and May of 1986 promoted thyroid carcinomas in 1500 patients who were exposed to radiation at the age group under 18. The common type of malignancy was papillary cancer (93.5%). For the period from 1990 to 2000, thyroid carcinomas were diagnosed in 674 children (age group under 15), in 262 adolescents (age group between 15 and 19) and in 564 young adults (age group from 19 to 33).   The highest number of thyroid malignancies in children and adolescents was diagnosed in Gomel and Brest oblasts located closer to the Chernobyl Nuclear Power Plant. For 15 years (1986–2000), spontaneous (non-radiogenic) thyroid carcinomas appeared only in 17 children.   Thyroid cancer promoted by radiation in children possesses the behavior to form the regional (73%) and distant (16.6%) metastases, mainly in lung. As a result of performed risk analysis for the cohort exposed at the age group under 18, the following values were obtained: 1.93 (1.79–2.06) per 104 PYGy for the absolute risk coefficient, and 37.66 (35.06–40.26) per Gy for the excess relative risk coefficient. ―Thyroid cancer in Belarus  Evgueni P. Demidchik  Yuri E.Demidchik  ほか 2002

きちんと、放射線由来の甲状腺ガンと原発事故由来の甲状腺ガンとを区別して、その発症人数を求めています。一方、髙野徹氏が引用した、ロシアの科学者(?)のSergei V. Jarginは、数多くのウクライナ、ベラルーシ、ロシアの子どもたちの患者の生のデータに向き合うことなく、甲状腺被ばく線量がいくつであるとか、LNT仮説(健康被害が被ばく線量に正比例するという仮説)がどうとか議論をしています。

 チェルノブイリ原発事故では、原発事故の放射線と人々の健康被害について、国連科学委員会(UNSCEAR)や国際原子力機関(IAEA)、世界保健機関(WHO)が認めたのは、ヨウ素131を摂取したことによる小児甲状腺ガンだけです。チェルノブイリ原発事故で、他のガンや健康被害が原発事故の放射能によって引き起こされたことは、科学的に認められていない、という立場をこれらの機関は取っています。

 今、そのヨウ素131を摂取したことによる、小児甲状腺ガンでさえ、原発事故の影響ではないという「科学」が作られようとしています。その中心人物の一人がSergei V. Jarginであり、髙野徹氏です。学術誌としてはInternational Dose Response Societyです。

 大事なのは、被ばく線量の推定や、健康被害がその被ばく線量に比例するかどうか、ではありません。本来、甲状腺ガンにかからなかったはずの子どもたちがガンにかかっている事実そのものです。被ばくしたか、被ばくしなかったかが、甲状腺ガンを発症したか、発症しなかったかに関係していることが事実として明らかになった以上、子どもたちを被ばくさせ甲状腺ガンを発症させる、原子力発電所の存在そのものも問われてしかるべきです。

また、甲状腺ガンは予後が良く、死なないガンであるという主張もチェルノブイリの経験に学んでいないうそです。これは、放射線以外の大人の甲状腺ガンについてのみ、言えることです。

ベラルーシでは初期に、放射線誘発ガンである小児甲状腺ガンを大人の甲状腺ガンと同じに捉えて、甲状腺の右葉にだけガンがあれば右葉を、左葉にあれば左葉だけを摘出していました。しかし、放射線誘発ガンである小児甲状腺ガンは極めて悪性で、周囲の臓器に転移するだけでなく、肺転移を起こし、ベラルーシでは初期に15人の子どもが手術後に亡くなっています。自殺した子どももいたようですが、肺転移した子どもは肺がんになり、血を吐いて亡くなったとエフゲニー・P・デミチック博士は講義で語っています。また、福島県民健康調査検討委員会の山下俊一氏らも、エフゲニー・P・デミチック博士を招き、ベラルーシにおける甲状腺ガンと題する講演を福島市で何度も行っています。しかし、山下俊一氏らは、ベラルーシの貴重な経験に学ぶことなく、無視してきました。

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