内部被ばくを考える市民研究会 例会 2021年11月14日(日)13:30~15:30 ツィキャスのみ配信

※ 基本的に毎月最終日曜日にツイキャス、会員向けZoomにて開催しています。以下、ツイキャスをご覧下さい。会員の方はZoomでも視聴できます。

※ 今回、10月例会を2週間延期して、11月14日(日)に開催させていただきます。

本日のテーマ

1 再び、学校給食の食材の放射性物質検査を! 

 13:30~14:00 報告 川根眞也

2 広島『黒い雨裁判』判決の意義を考える 矢ヶ﨑克馬『放射線被曝の隠蔽と科学』緑風出版を読む 第2回

 14:00~14:30 報告 川根眞也

3 福島県の小児甲状腺がん266人。「3.11甲状腺がん子ども基金」受給者、福島県内114人、福島県外62人、計176人。 「甲状腺がん当事者アンケート」を読む

 14:30~15:00 報告 川根眞也

4 被ばくしたくない。被ばくさせたくない。東電福島事故10年、避難と移住の権利を考える。原発賠償京都訴訟原告団「国際社会から見た福島第一原発事故」を読む。

 15:00~15:30 報告 川根眞也

ツイキャス http://twitcasting.tv/naibuhibakushim/show/

※ 当日はツイキャス中継のみを行います。会員の方はZoomでも視聴できます。

※ 臨時例会終了後、ネット懇親会を20:00~22:00行います。会員限定です。会員の方で希望されるかたはZoomのアカウントを作ってお待ちください。ネット懇親会のご案内を差し上げます。

http://twitcasting.tv/naibuhibakushim/show/ こちらでは、生中継の他、過去の動画を見ることも出来ます。 聞き逃した情報などもチェックしてみてください。 それでは、沢山のご参加をお待ちしています。

「福島でがんは増えない」(2021年3月)と報告書を出した国連科学委員会(UNSCEAR)の素顔とは?

 国連科学委員会(UNSCEAR、アンスケア)は、2021年3月「福島でもがんは増えない」という報告書を出しました。[記事3]

 日本経済新聞などは大々的にこの報告書を持ち上げています。[記事2]

 しかし、国連科学委員会(UNSCEAR)の議論は、福島県民の内部被ばくを軽視したものです。また、その被ばく線量の評価も「外部被ばく:内部被ばく=1:1」「同じミリシーベルトの被ばくならば、同じ健康被害が起こる」という理論に基づいています。このどちらも放射線防護の上では、致命的な間違いにつながります。

 ブログ 人生二毛作の田舎暮らしさんが、「国連科学委員会(UNSCEAR)の欺瞞」「UNSCEARの完全犯罪を許していいのか!」「IAEAへの質問」「UNSCEARレポートを捻じ曲げた黒幕は誰か?」など、国連科学委員会(UNSCEAR)の内部被ばく無視の科学などを追及されています。

国連科学委員会(UNSCEAR)の欺瞞 2021年3月19日 ブログ 人生二毛作の田舎暮らし

UNSCEARの完全犯罪を許していいのか! 2021年4月10日 ブログ 人生二毛作の田舎暮らし

IAEAへの質問 2021年4月8日 ブログ 人生二毛作の田舎暮らし

UNSCEARレポートを捻じ曲げた黒幕は誰か? 2021年4月7日 ブログ 人生二毛作の田舎暮らし

 最後の「UNSCEARレポートを捻じ曲げた黒幕は誰か?」に書かれているように、この国連科学委員会(UNSCEAR)の日本代表を務めていたのが、明石真言氏です。[記事4]

 この明石真言氏は放射線医学総合研究所の理事でもあり、東電福島第一原発事故当時に、「福島県民に対する健康被害の疫学調査は必要ない」として、官邸に疫学調査を断念させた張本人です。東京新聞2019年2月18日が詳報しています。[記事1]

 原発事故の放射能の内部被ばく・外部被ばくによる健康被害は、因果関係を証明するのが難しいものです。それは、発がんは何も放射線によるものだけではなく、たばこや飲酒、化学物質、電磁波の影響でも起きるからです。しかし、放射線被ばくした人が、被ばくしていない一般人よりも、より大きな確率で白血病、甲状腺がん、喉頭がんや咽頭がん、あるいは脳梗塞、心筋梗塞などに罹った場合は、因果関係が認められます。それを明らかにする唯一と言ってもよい方法が疫学調査です。

 その疫学調査を福島原発事故では行うべきではない、と放射線医学総合研究所理事の立場から中止に追い込み、そして、国連科学委員会(UNSCEAR)の立場から福島県民の被ばく線量の過小評価を行った明石真言氏。その犯罪性を明らかにするべきである、と考えます。

 人生二毛作の田舎暮らしさんは、国連科学委員会(UNSCEAR)に公開質問状を出して、回答を要求しています。

国連科学委員会への公開質問(1) 2021年9月19日 ブログ 人生二毛作の田舎暮らし

国連科学委員会への公開質問(2) 2021年9月20日 ブログ 人生二毛作の田舎暮らし

 2021年10月22日には国連科学委員会事務局長から回答が来ましたが、人生二毛作の田舎暮らしさんの提出した質問一つ一つに答えるものではなく、「12月リリース予定のthe 23 electronic attachmentsを見ろ」と言うものでした。回答ができずに逃げていると思います。

国連科学委員会からの回答 2021年10月22日 ブログ 人生二毛作の田舎暮らし

 朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、日本経済新聞などの大新聞は、国連科学委員会(UNSCEAR)の報告書を妄信することなく、その内容を検証するべきです。

[記事1]

 福島原発事故で放医研理事 官邸に「疫学調査不要」 国が見送る一因に
  2019年2月18日 東京新聞 朝刊 1面

 東京電力福島第一原発事故後の二〇一一年四月、国の研究機関・放射線医学総合研究所(放医研)の明石真言(まこと)理事が福山哲郎官房副長官(当時)に、住民の疫学調査は不要と進言していたことが分かった。原発事故の疫学調査では一般的に、多発が心配される甲状腺がんの患者数や分布を調べ、放射線の影響を分析する。しかし、国は本格的な調査に乗り出さず、福島県が「県民健康調査」を始めた。(榊原崇仁)

 甲状腺がんの原因となる甲状腺内部被ばくの測定も、国は千八十人で終えていた。明石氏はこの測定を問題視しなかった上、甲状腺がんの状況も調べなくてよいと提案したことになる。

 本紙は、同年四月二十六日に明石氏らが福山氏と首相官邸で面会し、住民の被ばくについて説明した会合の議事概要を情報開示請求で得た。文部科学省が作成し、放医研が保有していた。

 それによると、経済産業省の幹部が「論点として疫学調査の必要性の有無があろうが…」と切り出し、明石氏が「住民の被ばく線量は最も高くても一〇〇ミリシーベルトに至らず」「(疫学調査は)科学的には必要性が薄い」と述べていた。

 明石氏は現在、量子科学技術研究開発機構執行役。取材に応じ、「健康影響が確認できる基準は一〇〇ミリシーベルトと理解していたが、外部被ばくは原発の正門付近の空間線量からそこまでにならないと判断した。甲状腺の内部被ばくは国の測定で線量が高い人でも五〇ミリシーベルト、一〇〇ミリシーベルトにならなかったはず」と説明。「必要性が薄い」と判断した理由に、平常時との差が確認できるほど病気が増えると考えにくかったことを挙げた。

 放医研は文科省所管で一九五七年に発足した。緊急被ばく医療体制の中心的機関として位置付けられ、福島の事故では官邸や各省庁の助言役として活動。国が疫学調査をする場合は、実施主体になる可能性があった。国がこの調査をしなかったのは、放医研が否定的だったことが影響したとみられる。

福島原発事故で放医研理事 官邸に「疫学調査不要」 国が見送る一因に 2019年2月18日 東京 朝刊1面

[記事2]

福島事故被曝で国連報告書「健康への影響、可能性低い」 2021年4月1日 日本経済新聞 矢野 寿彦


東日本大震災から10年の節目となった2021年3月、東京電力福島第1原子力発電所の事故で生じた放射線の被曝(ひばく)による健康影響を考える上で、重要な国連の報告書がまとまった。結論は「将来、被曝が直接の原因となってがんが増えるなどの健康影響がみられる可能性は低い」という内容だ。


この報告書を作成し公表したのは、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)だ。主に放射線の環境への影響を調査・評価する科学者集団で、日米欧など27カ国が参加する。


1950年代、世界で核実験が続き、放射性物質が大気中に降り注いだ。環境、そして健康への影響を懸念する声や批判が高まるなか、55年の国連総会決議により設立された。
国際原子力機関(IAEA)や国際放射線防護委員会(ICRP)といった原子力や核、放射線に関する他の国際組織に比べ、政治から距離を置き、科学的かつ、中立的な立場をとる。


86年のチェルノブイリ原発事故の際に、大量の放射性物質が環境下に放出された。その被曝の影響で子供の甲状腺がんが明らかに増えたと結論づけ、影響力を持つようになった。


福島第1原発事故は1~3号基の原子炉3基が次々と炉心溶融(メルトダウン)し、チェルノブイリ原発事故に匹敵する惨事だった。ある意味、国連科学委が評価に乗り出すのは必然の流れだったといえる。


放射線被曝のレベルと影響を2年間にわたって調べ、2013年10月に国連総会で報告、さらに19年までの最新論文やデータを集めて網羅的に精査し、今回の「20年報告」となった。


13年報告は「福島第1原発事故を原因とする放射線による健康へのリスクは、チェルノブイリの場合よりはるかに低い。公衆や作業者の被曝線量が実質的に低かったためだ」と評価していた。突きつめるところ、20年報告もこの結論を追認したということになる。この7年間に従来の見解を覆すような科学的知見や新たなデータは出てこなかった。
国連科学委の日本代表を務めたことがある東京医療保健大学教授の明石真言さんは「13年報告は健康影響を考える上でデータが足りない分、数字を厳し目に見積もっていた。今回は実測データなどが充実した結果、より実態を映したものになっている」と評する。


例えば、実際に口にすることはない量の汚染した食品を食べたと仮定して被曝線量を推計してきたが、今回は流通した食品の汚染度合いの実測値で評価した。当然だが、数値は大きく下方修正された。


放射性物質の内部被曝でみると、食べ物を介したものはごく微量で、むしろ大気中から吸い込んだほうが多かった。


福島県民の事故後1年間の甲状腺への平均被曝線量についても、放射線への感受性が強く影響を受けやすいとされる1歳児で最大30ミリシーベルト、13年報告で示された推計値の半分を下回るレベルだった。80ミリシーベルトを被曝した子供が多ければ、従来はがんの増加が確認される可能性もあるとみていたが、今回はこれを否定した形になった。


留意しなければならないのは、今回の結論もあくまで現存するデータで導き出したものにすぎないという点である。また、国連科学委の評価の主眼は福島第1原発事故による線量評価であって、がんが増えるかどうかといった健康への影響の評価はあくまで副次的であることが報告書からもみてととれる。人的、資金的な面からも調査対象も限られている。


長年、専門家の間で議論が尽きず決着をみていない「低線量被曝」の健康影響について新たな知見や見解が示されたわけでもない。


福島第1原発事故の被曝影響といえば、海洋汚染が大きな社会問題でもあった。報告書は「12年までに原発沖の沿岸域の海水でさえ、セシウム137の濃度は事故前のレベルを超えることはほとんどなかった」と言及するが、それ以上に踏み込んだ内容はなかった。


福島第1原発の敷地内には今、1000基を超す数の貯水タンクが立ち並ぶ。なかに入っているのは汚染水を処理したあとに残るトリチウムという放射性物質を含んだ、いわゆる「処理水」だ。事故後10年たっても、海洋放出すれば風評被害は必至とされ、国や東電による判断は足踏みしたままだ。


国連科学委による10年目のお墨付きをもってしても、放射能への不安がなくなるわけではなく、海洋放出した際の風評被害が払拭されるものでもない。(編集委員 矢野寿彦)

[記事3]

東電福島事故後の 10 年:放射線関連のがん発生率上昇はみられないと予測される

https://www.unscear.org/docs/publications/2020/PR_Japanese_PDF.pdf


ウィーン(国連情報局)2021年3月9日:

2011年3月に日本で発生した3つの悲劇から10年経ち、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(the United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation:UNSCEAR)は本日公表となる2020年報告書(2020Report)の中で、放射線被ばくが直接の原因となる健康影響(例えば発がん)が将来的に見られる可能性は低いと言及している。


“UNSCEAR2013年報告書刊行以降、福島県の県民に、事故による放射線被ばくが直接の原因となりうる健康への悪い影響は報告されていない”とUNSCEAR議長のGillian Hirth氏は強調した。


表題“2011年東日本大震災後の福島第一原子力発電所における事故による放射線被ばくのレベルと影響:UNSCEAR2013年報告書刊行後に発表された知見の影響(Levels and effects of radiation exposure due to the accident at the Fukushima Daiichi Nuclear Power Station: Implications of information published since the
UNSCEAR2013Report)”のUNSCEAR2020年報告書は、2019年末までに公表された関連する全ての科学的知見(査読付き論文と観測データ)をとりまとめている。これらは福島第一原子力発電所(福島第一原発)の事故による放射線被ばくのレベルと影響に関連するものである。本報告書の目的は全科学的知見をとりまとめ、UNSCEAR2013年報告書についてこれら知見の影響を評価することである。全体的にみると、2020年報告書はUNSCEAR2013年報告書の主な知見と結論を概して確認するものであった。


この10年間で、被ばく線量評価に関する新規知見が相当数明らかとなった。この新規知見により当委員会は事故後の放射線被ばくのレベルと影響について改善されたより健全な評価を実施することが可能となった。追加の観測データと日本での人々の実際の食生活と行動についてのより包括的な知見に基づき改善されたモデル計算を行うことで、当委員会は線量評価を確認し、見直すこととなった。


見直された公衆の線量は当委員会の2013年報告書と比較して減少、または同程度であった。よって当委員会は、放射線被ばくが直接の原因となるような将来的な健康影響は見られそうにないと引き続きみなしている。


当委員会はまた、放射線被ばくの推定値から推測されうる甲状腺がんの発生を評価し、子供たちや胎内被ばくした子供を含む、対象としたいずれの年齢層においても甲状腺がんの発生は見られそうにないと結論付けた。公表されているエビデンスを鑑みると、被ばくした子供たちの間で甲状腺がんの検出数が(予測と比較して)大きく増加している原因は放射線被ばくではないと当委員会は判断している。むしろ、非常に感度が高いもしくは精度がいいスクリーニング技法がもたらした結果であり、以前は検出されなかった、集団における甲状腺異常の罹患率を明らかとしたに過ぎない。さらに、一般公衆の間で放射線被ばくが関係している先天性異常、死産、早産が過剰に発生したという確かなエビデンスはない。


作業者に関して、白血病と全固形がん(甲状腺がんを含む)の発生の増加が見られることはありえそうにないと当委員会は結論付けた。


当委員会は、放出された放射性物質の陸域、淡水域、海洋域環境への移行・拡散に関する知見もまた評価した。2012年までに、福島第一原発沖の沿岸域の海水でさえ、セシウム137の濃度は事故前のレベルを超えることはほとんどなかった。福島原発事故による放射線被ばくとの明らかな因果関係について、野生生物集団に対する地域限定的な影響はありえそうにないと当委員会は、引き続きみなしているが、放射線レベルが増加した地域では、有害な影響がみられた植物や動物も観察されている。検査された食物のほとんどで、放射性物質の濃度は事故後の時間経過とともに急速に減衰した。


野生生物集団への地域限定的な影響と、自然環境下で、より上位にある生物階層と生態系の機能と構造の要素を考慮できるような野外条件下でヒト以外の生物相への放射線被ばくの影響を、さらに調査することは有益でありうると当委員会は考えた。


報告書へのアクセス:http://www.unscear.org/unscear/en/publications.html.
照会先:
UNSCEAR secretariat
Ms. Jaya Mohan
Email: jaya.mohan@un.org
Website: www.unscear.org

[記事4]

明石 眞言 AKASHI MAKOTO

国際医療保健大学 教員データベース

所属東が丘・立川看護学部 看護学科
職位教授
学位・資格医学博士、医師、日本医師会認定産業医、社会医学専門医・指導医
担当科目公衆衛生学

研究テーマ

被ばく医療、原子力災害、公衆衛生学、放射線影響、放射線生物

最近の業績または代表的な業績

【著書・論文・学会発表】

Numerical Simulation Based on Individual Voxel Phantoms for a Sophisticated Evaluation of Internal Doses Mainly From 131I in Highly Exposed Workers Involved in the TEPCO Fukushima Daiichi NPP Accident. 2019 Health Phys.116:647-656

An accident of internal contamination with plutonium and americium at a nuclear facility in japan: a preliminary report and the possibility of dtpa administration adding to the diagnosis. 2018 Radiat Prot Dosimetry182:98-103

Experiences of population monitoring using whole-body counters in response to the Fukushima nuclear accident. 2018   Health Phys 115:259-274

 Early Intake of Radiocesium by Residents Living Near the Tepco Fukushima Dai-ichi Nuclear Power Plant After the Accident. Part 2: Relationship Between Internal Dose and Evacuation Behavior in Individuals. 2017 Health Phys 112:512-525

 The first meeting of the who guideline development group for the revision of the WHO 1999 guidelines for iodine thyroid blocking  2016  Radiat Prot Dosimetry 171:47-56  

  世界各国による原水爆実験(第五福竜丸被ばくを含む)「放射線医科学の事典―放射線および紫外線・電磁波・超音波―」、朝倉書店 2019年12月

【講演・研修指導】

 国際原子力機関IAEAや世界保健WHOが主催する国際研修会講師

2020年 8月 IAEA Webinar Material –  WEBINAR on medical response to nuclear and radiological safety or security related emergencies: Lessons learned from case studies

2019年  5月   IAEA Regional Workshop on Medical Preparedness and Response in case of a Nuclear or Radiological Emergency(ウルグアイ)      

2019年  2月   IAEA UAE National Training Course on Medical Preparedness and Response to Radiation Emergencies in coordination with the IAEA and NCEMA(アラブ首長国連邦)         

2018年11月   IAEA Expert Mission to Review Medical Preparedness to Radiological Emergency(アラブ首長国連邦)   

2018年  5月   WHO The 3rd Asian WHO/REMPAN Workshop/Monitoring, Assessment and Management of Internal Contamination(韓国)

【所属している学会・活動】

日本放射線事故・災害医学会(代表理事

日本血液学会(評議員)

日本放射線影響学会

日本公衆衛生学会

日本保健物理学会

日本放射線看護学会(監事)

【専門領域での活動】

第五福竜丸の乗組員の健康診断を行うとともに、被ばく医療に従事。1999 年JCO臨界事故を初めとする 大小様々な放射線事故の医療に関わり、我が国の被ばく医療では大きな役割を果たす。2001年に パナマ国立腫瘍研究所で発生した過剰被ばく事故において国際原子力機関(IAEA)の国際専門家チームの一員として派遣。2011年の東京電力福島原子力発電所事故時には消防、警察等の放射線防護、国や自治体への助言、汚染患者の治療等幅広く活動。2017年国立研究開発法人日本原子力研究開発機構大洗研究 開発センターで起きた、プルトニウムによる内部被ばく事故では、治療に従事。2019年7月より茨城県竜ケ崎保健所長。

1994年    日本血液学会奨励賞受賞

2005年   文部科学大臣賞(原子力防災対策功労者)

2019年 令和元年度防災功労者内閣総理大臣表彰

 2017年より2019年まで原子放射線の影響 に関する国連科学委員会(UNSCEAR)日本代表。現在同委員会福島プロジェクトシニアテクニカルアドバイザー(STA)。

内部被ばくを考える市民研究会 9月例会 2021年9月26日(日)13:30~15:30 ツィキャスのみ配信

※ 基本的に毎月最終日曜日にツイキャス、会員向けZoomにて開催しています。以下、ツイキャスをご覧下さい。会員の方はZoomでも視聴できます。

本日のテーマ

1 虚構の放射線防護の科学を切る。矢ヶ﨑克馬著『放射線被曝の隠蔽と科学』緑風出版を読んで 

 13:30~14:00 報告 下澤陽子

2 解説 矢ヶ﨑克馬『放射線被曝の隠蔽と科学』 国際放射線防護委員会の「吸収線量」と「照射線量」とは何ですか?

14:00~14:30 報告 川根眞也

3鼎談『放射線被曝の隠蔽と科学』を今、読む意味って何だろう?

14:30~15:00 鼎談 下澤陽子・新谷まり・川根眞也

4 黒い雨裁判広島高裁判決 2021年7月14日「黒い雨に遭った人は被爆者に該当する」の画期的意義とは?

15:00~15:30 報告 川根眞也

ツイキャス http://twitcasting.tv/naibuhibakushim/show/

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阿蘇のコシヒカリの農家さんのご紹介 2021 水田土壌はセシウム137 1.9ベクレル/kg セシウム134は不検出(<0.075)

 阿蘇のコシヒカリ農家さんの農地土壌を採取し、阿蘇のコシヒカリの水田土壌を測定させていただきました。

 ちくりん舎のゲルマニウム半導体検出器で64時間測定で、セシウム134 不検出(検出限界0.075ベクレル/kg)、セシウム137だけが検出されました。1.9±0.35ベクレル/kgです。 

 阿蘇のコシヒカリの販売をします。検査費用カンパ1000円を含み、1俵(30kg袋×2、合計60kg)を2万7000円(送料込み)です。また、阿蘇の米農家さんへの義捐金も受け付けます。また、半俵(30kg袋×1g)を1万3500円(送料込み)です。

 一昨年より好評につき、ねぎ5kgも販売します。送料込みで1箱5kg入りで4000円です。お金はお米と同時期に納入いただきますが、ねぎの発送は一番おいしくなった12月の中旬に送らせていただきます。

 販売数量(予定)は24俵(48袋)です。

 9月24日現在、残り9俵(18袋)になりました(2021年9月24日)。

 お申し込みは9月20日までに下記のアドレスまでお申し込み下さい。かならず、下記の内容をお書き下さい。また、後日1俵あたり27,000円、半俵あたり13,500円、ねぎ5kg 1箱4,000をお振り込み下さい。振り込み先は申し込みを確認した際に改めてご案内します。今回は第2次募集は行いません。また、来年1月末発送も行います。その申し込みもただ今受け付けています。

申し込みアドレス

entry.naibu@gmail.com 内部被ばくを考える市民研究会事務局

申し込み内容

1.氏名
2.メールアドレス
3.申し込み俵数・箱数
阿蘇のコシヒカリ   俵
ねぎ       箱
(1俵60kg 27,000円、半俵30kg 13,500円、ねぎ5kg 1箱4,000円)
4.送付先住所
5.電話番号
6.振り込み金額      円

(1俵あたり27,000円、半俵13,500円、ねぎ5kg 1箱4,000円)
7.振込者名
※ 申し込み者と振込者名が違う場合は必ず7番をお書き下さい。
同じ場合は「1に同じ」で結構です。

<申し込み締め切り 第1回目> 2021年9月20日

<申し込み締め切り 第2回目> 2021年9月30日

メールの申し込み後、振込先をご連絡します。

水田土壌測定結果 

阿蘇 水田土壌(阿蘇市中原154) 2176.3g セシウム134 不検出(検出限界0.075ベクレル/kg) セシウム137 1.9±0.075Bq/kg 土壌採取日 2021年6月10日 14:00pm 測定日 2021年8月27日 Ge半導体検出器 64時間測定

 これはほぼ大気圏内核実験によって降下したセシウム137のみと考えられるほど低い汚染度であると思います。2009年平均の日本全国の土壌0~5cmのセシウム137の汚染度は下記をご覧下さい。熊本県阿蘇市西原村の土壌はセシウム137が38ベクレル/kg(表土0~5cm)でした。これと比較すると非常に低い汚染であると考えられます。

図1 熊本県 阿蘇市 水田土壌 中原154 セシウム134 不検出 0.075未満 セシウム137 1.9Bq/kg 検査報告書 2019年5月4日採取

図2 熊本県 阿蘇市 水田土壌 中原154 セシウム137 1.9Bq/kg スペクトルデータ 2021年6月10日採取 

 上記のスペクトルデータでは、セシウム134のピークがまったく見えないことが分かります。セシウム134のピークは以下です。上のスペクトルデータで以下のエネルギーのピークは一切見えません。つまり、半減期2年のセシウム134は検出されていません。つまり、熊本県阿蘇市のこの水田土壌のセシウム137は、大気圏内核実験の影響であると考えられます。
 セシウム134 ガンマ線放出エネルギー
         563keV 8.4%
         569keV 15.4%
605keV 97.6%
796keV 85.5%
         802keV 8.7%
1365keV  3.0%

原発事故前の日本の土壌はどれくらいセシウム137で汚染されていたのか? 【データ出典】日本の環境放射能と放射線データベース

http://www.radiationexposuresociety.com/archives/11619

  以下が、原発事故前の2009年度白米および水田作土のストロンチウム90、セシウム137濃度です。文科省 第52回環境放射能調査研究 成果論文抄録集(平成21年度) p.15~16より。

 かつての水田作土中のセシウム137汚染度は3.8ベクレル/kg(石川県金沢)~14.9(新潟県上越)、ストロンチウム90の汚染度は0.2(福岡県筑紫野)~1.6(新潟県上越)でした。

 この資料から、この阿蘇の米農家さんの土壌 セシウム137 1.9ベクレル/kgの水田土壌で作られたお米からは セシウム137が0.02ベクレル/kgも含まれることはない、と考えることができます。

阿蘇のコシヒカリ栽培農家

熊本県阿蘇市
農業者 田中幸博さん
経営規模 水田   264アール
     水稲   165アール
     飼料稲    70アール
飼料用とうもろこし 14アール
   ねぎ     15アール(35アールは条件の良いところを借りて栽培)

        合計50アール栽培
繁殖牛  赤毛和種 2頭 黒毛和種 1頭を飼育

 今回、これまで阿蘇のコシヒカリを作付してきた水田は、熊本地震により亀裂が入りました。震災3年かけても水田の基盤整備は終わっていません。2016年から亀裂の入っていない、別の田んぼで作付をしています。

2013年~2015年の水田の土壌データ

2013年

ちくりん舎のゲルマニウム半導体検出器で17時間測定、検出限界ーセシウム134 0.45ベクレル/kg、 セシウム137 0.477ベクレル/kgーで、セシウム137のみ 2.02±0.37ベクレル/kg検出されました。土壌採取日:2013年5月4日 測定日:2013年8年15日 Ge半導体検出器 17時間測定 

2014年

ちくりん舎のゲルマニウム半導体検出器で4時間測定、セシウム134 不検出 検出限界0.91ベクレル/kg、セシウム137のみ検出 2.2±0.57ベクレル/kg検出されました。土壌採取日:2014年5月4日 測定日:2014年6年13日  Ge半導体検出器 4時間測定 

2015年

ちくりん舎のゲルマニウム半導体検出器で15時間測定、セシウム134 不検出 検出限界0.20ベクレル/kg、セシウム137のみ検出 2.0±0.43ベクレル/kg検出されました。土壌採取日:2015年5月3日 測定日:2015年7年7日 Ge半導体検出器 15時間測定 

2016年 

2013年~2015年の水田は2016年4月14日および4月16日の熊本地震で亀裂が入り、水がたまらなくなってしまいました。2016年度から別の水田(阿蘇市中原97 中原127)でお米を作っています。

ちくりん舎のゲルマニウム半導体検出器で118時間測定、セシウム134 不検出(検出限界0.066ベクレル/kg)、セシウム137のみ検出 0.52±0.11ベクレル/kg検出されました。土壌採取日:2016年7月18日 測定日:2016年8年12日  Ge半導体検出器 118時間測定

 2015年までお米を作っていた水田には、2016年4月14日、4月16日の熊本地震によって亀裂が入りました。

<熊本地震>

 2016年4月14日21:26pm M6.5 最大震度7、4月16日1:25am M7.3 最大震度7の地震が熊本県熊本地方を襲いました。

 これまで、内部被ばくを考える市民研究会では熊本県阿蘇市の米農家さんと協力し、田んぼの土壌の放射物質の検査を行いながら、安心して食べられるお米をご紹介してきました。原価実費+1000円程度放射能検査費用だけをいただいて。

『阿蘇のコシヒカリの農家さんのご紹介 2016 』
http://www.radiationexposuresociety.com/archives/6896

内部被ばくを考える市民研究会 臨時例会 2021年5月16日(日)13:30~15:30 ツィキャスのみ配信

※ 毎月最終日曜日でツイキャス、会員向けZoomにて開催しています。以下、ツイキャスをご覧下さい。会員の方はZoomでも視聴できます。

本日のテーマ

『東電福島第一原発事故「10万cpmのレベルの被ばくでも大丈夫」とデタラメ計算をした放射線医学総合研究所』

1  榊原崇仁『福島が沈黙した日 原発事故と甲状腺被ばく』集英社新書 を読む

 13:30~13:50

榊原崇仁『福島が沈黙した日 原発事故と甲状腺被ばく』集英社新書1051B 900円(2021年1月20日刊)

2 スクリーニングレベルは1万3000cpmだった 10万cpmに引き上げられた理由

  14:00~14:20 報告:川根眞也

3 10万cpm 本来なら1歳児769ミリシーベルトに相当
   放射線医学総合研究所は0.17ミリシーベルトに相当と「計算間違い」

  14:30~14:50 報告:川根眞也

4 甲状腺被ばくをたった1080人だけ、原発30km圏外、しかも2週間後に測った理由

  15:00~15:20 報告:川根眞也

ツイキャス http://twitcasting.tv/naibuhibakushim/show/

※ 当日はツイキャス中継のみを行います。会員の方はZoomでも視聴できます。

※ 臨時例会終了後、ネット懇親会を20:00~22:00行います。会員限定です。会員の方で希望させるかたはZoomのアカウントを作ってお待ちください。ネット懇親会のご案内を差し上げます。

http://twitcasting.tv/naibuhibakushim/show/ こちらでは、生中継の他、過去の動画を見ることも出来ます。 聞き逃した情報などもチェックしてみてください。 それでは、沢山のご参加をお待ちしています。

 福井県で3つの40年超え老朽原発を再稼働しようとする取り組みを関西電力が進めています。

 榊原崇仁氏(東京新聞記者)の『福島が沈黙した日 原発事故と甲状腺被ばく』集英社新書1051B 900円(2021年1月20日刊)を読み終えました。衝撃を覚えました。

 すでに過去の例会で、東電福島第一原発事故が起きた際のスクリーニング
レベルが、当初は1万3000cpmで行う予定だったものが、放射線医学総合研究
所の「専門家」のアドバイスによって10万cpm(つまり7.69倍に緩められた)
ことはご報告したことがあります。榊原崇仁氏は東京新聞こちら特報部を担
当し、福島県民健康調査検討委員会の被ばく隠しや、山下俊一氏がニコニコ
発言の裏で「子どもの甲状腺被ばくは深刻な可能性がある」と発言していた
ことを情報公開請求で明らかにしてきた記者です。
 
 今回、この本で福島県現地災害対策本部や、ある意味菅直人政権の原発事
故担当者まで、「10万cpmのレベルの被ばくでも大丈夫」と騙していたのは、
緊急被ばく医療を担当するはずだった、放射線医学総合研究所であったこと
を曝露しています。

 それも、甲状腺等価線量をいう内部被ばくの線量計算がよくわからない職
員に、被ばく計算をさせ、また、よくわからない職員に「メモ」を渡してそ
の通り書かせた、という経緯です。

 GM管サーベーメータという汚染検査機器で、体表が1万3000cpmの汚染があ
った場合、これがすべてヨウ素131による汚染だった場合、1歳児の乳児の場
合、甲状腺等価線量が100ミリシーベルトになる、という想定でした。ですか
ら、1万3000cpmで服を脱がせて、からだを洗うなどの除染をし、安定ヨウ素
剤を服用されることが、福島県の「福島県緊急被ばく医療活動マニュアル」に
掲載されていました。また、当然のことながら、甲状腺で100ミリシーベルト
も被ばくしているのですから、その後の健康観察も必要です。きちんと氏名
や住所を記録し、甲状腺の線量も測る、ホールボディーカウンターで内部被
ばくも測ることが必要でした。

 その基準を「除染する水が冷たいものしかない」「服を着替えされると風邪
をひかせて肺炎を起こすかもしれない」と、1万3000cpmのスクリーニングレベ
ルを10万cpmに2011年3月14日に引き上げたのです。緊急時でやむを得ない部分
があったとしても、10万cpmは甲状腺等価線量では769ミリシーベルトに相当す
るというメモも残されています。1万3000cpm超えや10万cpm超えの避難者はス
クリーニングレベルを超えていたのですから、氏名や住所を記録し、その後の
フォローアップをするべきでした。少なくとも3月14日の時点で原発はまた爆発
する、または、4号機や3号機の使用済み核燃料プールの冷却水がなくなってい
て自衛隊による大量の放水も続いていて、使用済み核燃料はメルトダウンする
危険性が残っていました。この意味からも予防的に福島県民に安定ヨウ素剤を
服用させるべきでした。
 そして、少なくとも10万cpm超えは102人(他にも10人)。1万3000cpmを超え、
10万cpm以下は判明しているだけでも430人います。
―study2007『見捨てられた初期被曝』岩波書店 1300円(2015年6月12日刊)pp.45

こうした避難者には一刻の猶予なく、安定ヨウ素剤を服用させるべきでした。

 福島県では外部被ばくだけを議論して「100ミリシーベルト超える避難者は
いない」と放射線の専門家が言い張っています。

 しかし、福島県のマニュアルでも

1万3000cpmの汚染→甲状腺等価線量100ミリシーベルト(1歳児の場合)
※ 被ばく管理は安全側に考えるため、この1歳児の場合をすべての避難者
に適用することにしていた。

とありました。また、原子力委員会の回答には

10万cpmの汚染→甲状腺等価線量769ミリシーベルト(1歳児の場合)

とありました。

氏名も住所も記録されず、安定ヨウ素剤も服用させてもらえず、人数だけしか記録がありませんが、原子力災害現地対策本部、福島県放射線技師会、日本放射線技師会サーベイ派遣隊の集計では


甲状腺被ばく100ミリシーベルト超えが少なくとも430人。

甲状腺被ばく769ミリシーベルト超えが少なくとも102人(+10人)

いた、ということです。―study2007 pp.45

 放射線医学総合研究所の何者かがこの10万cpmでよい、と指示を出しました。
そして、放射線医学総合研究所が「避難者の被ばくは100ミリシーベルトに
いかない」と安定ヨウ素剤も服用させませんでした。さらに、10万cpmの汚染が
あって被ばくは大丈夫か?という疑問が寄せられて、放射線医学総合研究
所が「でたらめな計算式」を作って流しました。これが真実でした。

放医研が作成した「汚染クリアランスレベルとして100000cpmを設定した根拠(メモ)」 榊原崇仁 pp237


 これは一見、計算結果はあっているように見えます。しかし、かけること
をしてはならないものをかけています。その結果、放射線医学総合研究所が
出した結論は、

10万cpmの汚染→170マイクロシーベルト、つまり、0.17ミリシーベルト

です。769ミリシーベルトがなぜ、0.17ミリシーベルトになるのか、それを
今回の5月例会で明らかにします。これは意図的、計画的な詐欺です。正直
川根も第1種放射線取扱主任者試験の勉強を終えていなかったなら、このか
らくりはわからなかったでしょう。

 悪質なのは、放射線医学総合研究所の誰か(カマクラ)が計算メモを作りました。
そして「10万cpmの汚染でも大丈夫だという計算式をかけ」と言われた、被ばく
線量の計算もしたことがない職員が、そのメモ通りに

10万cpmの汚染→170マイクロシーベルト、つまり、0.17ミリシーベルト

と書いたことです。

 榊原崇仁氏はこの放射線医学総合研究所の上部組織に安全管理部長に「カマ
クラ」姓のものがいることを突き止め、取材を申し込んだが断られたといいま
す。

 本来ならば、769ミリシーベルトとしなければならないのを0.17ミリシーベ
ルトと「計算し」、その「計算結果」は「胃の集団X線検診の0.6ミリシーベル
トよりも小さい」「自然放射線の年間2.1ミリシーベルトよりも小さい」と
「安全な値」として福島の避難者に押しつけられたのです。
   
 他にも、この榊原崇仁氏『福島が沈黙した日 原発事故と甲状腺被ばく』
には、何故、甲状腺の内部被ばくを測ったのがたった1080人なのか?(チェル
ノブイリ原発事故では3カ国で30万人の甲状腺の内部被曝を測っています)という
疑問の答えを明らかにしています。

参考資料:井戸川克隆氏 体内にヨウ素131 31万ベクレル。内部被ばくは1シーベルトか?
https://www.radiationexposuresociety.com/archives/5006
 ↑
ここにNaTシンチレーションスペクトロメータがあります。甲状腺にたまったヨウ素131
を測ることができます。原発事故に備え、これは放射線医学総合研究所や現地対策本部
に準備されていたはずです。チェルノブイリ原発事故でも同様な機器がすでに使われて
います。

 簡単にまとめると、「100ミリシーベルト超えの被ばく者はいない」という
結論を出すために、原発から30km圏外の子どもを調べた、ということです。
それも原発事故が起きてからほぼ2週間もたった3月24日、25日、30日に。
 翻れば、3月12日、13日、14日、15日、16日の大量の放射能を浴びた避難者
の甲状腺にたまったヨウ素131を調べない、安定ヨウ素剤も服用させない、と
いう仕打ちをしたのが、放射線医学総合研究所です。10万cpmの汚染が769ミリ
シーベルト相当という試算があるので、それを否定するためにデタラメな計算
式を、計算ができない職員に書かせ、成文化し、「数値は一人歩きしてしまう
ことがあるので、対外的に言わないこと」を書いて、福島県や政府関係者に口
止めをしていた、ということ。先に紹介した、放医研が作成した「汚染クリアランスレベルとして100000cpmを設定した根拠(メモ)」 榊原崇仁 pp237
に、その口止めの文章があります。

 新型コロナ対策でも、無症状感染者が感染を広げているのに、感染者が判明
してもそのまわりの無症状者を意図的にPCR検査の対象から排除して、有症者だ
けを検査しているのが、現在の日本です。
 無症状感染者のうち3分の1が、強い感染力を持つスーパースプレッダーの可
能性という報告が世田谷区の社会的検査で判明しています。

令和2年度第11回世田谷区長定例記者会見令和3年3月26日世田谷区 
https://www.city.setagaya.lg.jp/mokuji/kusei/001/002/003/d00190932_d/fil/siryou.pdf
pp.12 ① 主に無症状者を対象とした社会的検査での陽性78件のうち27件(34.6%)
が他者に容易に感染させ得るウイルスを保有していた。
① ②の27件のうち、約8割が利用者(高齢者)であった。

 無症状を放置したままでは、このままの感染状況が続くでしょう。各地で医療
がその限界を超えています。救急車で亡くなる。家庭で亡くなる事例が増えてい
ます。

 新型コロナでも調べない。原発事故が起きても調べない。奇妙な一致です。
つまり、国民の健康を守る気がない国家組織。何につけても「安全・安心」
を語り、「国民のパニックを恐れる」国家組織。

 その国家が、福井県の老朽原発3基の再稼働を目指しています。うち、美浜3
号機が今月5月末にも再稼働が予定されている、と福井新聞4月30日が報道して
います。

 原発震災が2度目起きれば、また、スクリーニングレベルを10万cpmで行い、安
定ヨウ素剤も服用も服用させず、高レベルの被曝があってもなかったことにする
でしょう。これは「原子力災害避難計画」以前の話です。

 また、このとんでもない「計算間違い」によって、現在は原発事故直後のスクリーニングレベルが10万cpmになっています。ちなみに、この10万cpmは日立アロカ社製のサーベイメータTGS-146の最大目盛りの針が振り切れるレベルです。原発の放射線管理に使うサーベイメータの最大目盛りの針が振り切れるレベルを、住民が危険なレベル
被ばくしているか、どうかを判断する基準とするとは。

 ちなみに、食品の放射能汚染の基準値もセシウム134、137合計100ベクレル/kg
から自民党の部会は1000ベクレル/kgに引き上げる検討をしています。

 原発汚染水の海洋放出も、基準はトリチウム 6万ベクレル/Lです。それではあ
まりに高いので、1500ベクレル/Lに海水で薄めて放出する、と東京電力は計画して
います。

 こうしたことをお話しします。もし、本をお持ちの方は是非、少しでも目を通し
ておいてください。

榊原崇仁『福島が沈黙した日 原発事故と甲状腺被ばく』集英社新書1051B 900円(2021年1月20日刊)
study2007『見捨てられた初期被曝』岩波書店 1300円(2015年6月12日刊)

トリチウム資料4 低レベル・トリチウムの遺伝的効果について 特に染色体異常を中心に 堀雅明 中井斌 1976年 

[解説]この資料では、さらっと書いてありますが、トリチウム水37ベクレル/Lでも対照群(コントロール)よりも染色分体異常が多かったと読める実験結果が示されていることです。表1 トリチウム水(HTO)と3Hーチミジン(3HーTdR)によって誘発された染色体異常の種類とその頻度 堀雅明 中井斌 1976年

また、この資料では以下のように書かれています。

「最も特長的なことは, 濃度効果曲線が二相性を示したことである。この結果をリスク推定の立場から考えると, もし高濃度域の直線性から低濃度域での効果を推定するなら, 2μCi/m1の濃度で自然発生頻度の染色分体切断頻度(約0. 4%)と等しくなる。しかし, 実験データの示すところでは, この濃度での頻度は自然発生頻度の2倍となっている(倍加線量の濃度)。さらに, 現在, わが国での許容量(2×10-3μCi/mJ)は低濃度のゆるい勾配の領域の中にあるので, レたがつて高濃度域からの外挿による推定では許容量付近の染色分体切断の真の価を見誤まることになる。すなわち, 許容量付近のきわめて低いレベルの線量効果を高線量の効果から推定する際には, 充分な考慮の必要なことを示すといえよう。リスク推定の外挿からすると, 本実験の示す染色分体切断の数値は, あくまで染色体異常の遺伝的リスクの上限値であることにあらためて念をおしておきたい。」

以上の指摘は重要です。被ばく線量と人のがん化などの健康影響とは比例関係にある、とするLNT仮説を国際放射線防護委員会(ICRP)や国連科学委員会(UNSCEAR)は取っているからです。極めて高いトリチウム水や有機トリチウムをマウスに与えたことによる実験結果から発がんリスクを求め、結果、低線量のトリチウム水や有機トリチウムは危険ではない、とICRPやUNSCEARは言っています。原子力規制委員会も同様です。ですから、原発から出してもよい、トリチウム水の濃度は60,000ベクレル/Lを規制値とすることになっています。

この資料では、はっきりと高い線量からの外挿で、極低線量の染色分体切断を判断することは健康被害の影響を見誤ることになる、と書いているのです。

菅政権の東電福島第一原発の「処理水」の海洋放出方針決定は見直すべきです。

低レベル・トリチウムの遺伝的効果について 特に染色体異常を中心に 堀雅明 中井斌 1976年1月30日 保健物理


[資料]保健物理, 11, 1~11(1976)

総説

低レベル・トリチウムの遺伝的効果について 特に染色体異常を中心に 堀雅明*1, 中井斌*1

(1976年1月30日受理)

On the Genetic Effects of Low-Level Tritium

Mainly on the Chromosome Aberrations Induced by Tritium

Tada-aka HORI*1 and Sayaka NAKAI*1

*1放射線医学総合研究所遺伝研究部;千葉市穴川4-9-1

(〒280)

Division of Gerletics, National Institute of Radiological

Sciences; 9-1, Anagawa 4℃home, Chibashi,

Chiba-ken.

Genetic risk assessment for potential hazard from environmental tritium to man becomes important with increasing nuclear-power industry. The purpose of this short review is to discuss the possible genetic effects of tritium from a view of genetic risk estimation.

The discussion is based mainly on our experimental results on the chromosome aberrations induced in human lymphocytes by tritium at the very low-level. The types of chromosome aberrations induced by radiation from tritium incorporated into the cells are mostly chromatid types. The most interesting finding is that the dose-response relationship observed in both tritiated-water and tritiatedthymidine is composed of two phases. The examination on the nature of two-phase dose-response relationship is very important not only for the mechanisms of chromosome aberrations, but also for the evaluation of genetic risk from low-level radiation.

1 はじめに

近年, 原子力平和利用としての原子力発電の発展に伴い, 将来, 原子炉および核燃料再処理施設から環境中に放出されるトリチウムの量が膨大なものになることが予想され, ヒトに対するトリチウムの影響の問題が世界的に関心をもたれるようになってきた。トリチウムに関する研究論文の数をみても, 第1図に示されるように, 過去10年間に20倍以上にも増加してきている。原子力施設から放出されるトリチウムは主として, トリチウム水(HTO)の形で環境中に放出されるため, 地球上の生物圏内にかなり急速に, しかも均等に分布する性質をもっている。したがって, 世界的にトリチウムの濃度が上昇すると, 個人の被曝線量の増加はわずかでも, 世界の人類集団の被曝線量を考えるなら, その遺伝線量はかなり大きいものとなって, 遺伝的障害の確率も軽視できないと予想されなくもない。これら遺伝的障害の確率の確定には, 単に被曝線量の推定のみによって決してこと足りるものでなく, トリチウムの遺伝障害についての, 線量効果関係の知見, 特に予想される低線量域のデータが人体へのリスクの推定のかなめとなるものである。

トリチウムの生体に及ぼす影響(生物効果)については, transmutationの効果ども関連してこれまで多くの研究がなされてきた2)。しかし, 遺伝的効果についての研究は少なく, 特に低レベルの効果については, まったくといってよいほど研究がなされていない, のが現状である。したがって本稿では, 放医研における「低レベル放射線の人体に対する遺伝的危険度の推定に関する研究」の一環として, われわれの行っている「トリチウムによる染色体異常の研究」を中心に, トリチウムの遺伝的効果について考察することとする。染色体異常(染色体突然変異)は遺伝子突然変異とならんで, 遺伝障害の2大要因である。そこで, 本稿ではまず, 突然変異としての染色体異常とヒトでの染色体異常について簡単な説ヒトを含めたあらゆる生物の基本的性質は, 親から子に伝わる遺伝情報に基づくものである。この遺伝情報は, 遺伝物質であるDNAの分子構造の塩基配列によって決定される。遺伝情報の単位となるのが遺伝子(gene)で, ヒトではその数はおよそ3万程度と推算されている。遺伝子DNAは, 高等生物では核内に存在する塩基性色素で染められる構造体, すなわち染色体(chromosome)に, そのほとんどが存在する。ヒトでは, その数は46本ある。細胞の分裂・増殖に際しては, このDNA分子の正確な複製が先行し, 複製されたDNAが染色体を構成して, これが分裂細胞に均等に分配される(第2図参照)。すなわち, 細胞分裂には遺伝子DNA分子の正確iな塩基配列のコピーの複製に基づいた, 遺伝情報の正確な伝達を伴い, このような遺伝情報は生殖細胞の分裂, 受精を通-じて後代の子孫に伝達(遺伝)される。したがって, この過程中に遺伝情報に変化を生ずると, その変化は正確に複製されて後代に伝わり, 表現型になんらかの異常を生’じることになる。これが突然変異(mutation)である。突然変異にはDNA分子の塩基配列の変化を含む, 遺伝子レベルでの突然変異(gene mutation)と, 光学顕微鏡下で認識される, 染色体レベルでの変化(chromosomal mutation) に区別される。後者は細胞学の伝統から, 染色体異常(chrornosome aberration)とも呼ぼれる。染色体は遺伝子の集合体であるので, 染色体異常は当然これを有する細胞の遺伝情報に大きな変化をもたらすことになる。このような理由で, 放射線による染色体異常の誘発の線量効果関係のデータは, 遺伝的リスクの推定に欠かすことのできない重要なポイソトである(国連科学委員会報告, UNSCEA19723), アメリヵ学士院報告BEIR19724))。IIIヒトの染色体とその異常ヒトの染色体は22対, 44本の常染色体(autosomes)と2本の性染色体(sex hromosomes)とから構成されている。現在ではヒトのすべての染色体を特殊な処理をすることによって, 同定識別することが可能となった。

ここではヒトの染色体を例にとって, 染色体異常とその遺伝的効果について概略を述べる。

1. 染色体の数的異常

数的異常は, 倍数体(polyploid)と異数体(aneuploid)に大別される。倍数体とは基本的染色体数が整数倍加している場合で, ヒトの場合は致死的で流産胎児に発見されている。異数体はある染色体が1本以上多い過剰(hyperploid)と, 1本以上少ない欠失(hypoploid)の2とおりがある。この異数体の生じ~る機構としては, 配偶子の減数分裂時での不分離(non-disjunction)が考えられている。常染色体の数的変異によるヒトの遺伝的疾患として, よく知られているのが, 21番目の染色体が1本:多いダウン症候群で, わが国では出生児700人に1人

の割合で存在する。性染色体の数的変異にはいろんな型のものが報告されているが, すべて, 性の分化あるいは機能に関してなんらかの障害を伴っている。また染色体-の数的異常は, 死産の大きな原因にもなっている。

2. 染色体の構造異常

染色体の構造異常は, 染色体DNAにおこった切断が原因となっている。切断端が, 切断としてそのまま残るか, あるいは他の染色体に転座するかによって種々の構造変異が生じる(第3図参照)。大別すると, 染色体型(chromosome type)と染色分体型(chromatid type)とがある。一般に染色体DNAの複製前に切断がおこると, 染色体型の異常となり, 複製後に切断がおこると,染色分体型の異常となることが知られている。染色体型としては染色体切断(fragment), 二動原体染色体(dicentricchromosome), 環状染色体(ring chromoeome),逆位(inversion)あるいは転座(translocation)などがある。染色分体型には, 染色分体切断(chromatid break)や染色分体間組換(chromatid interchange)などがある。

動原体をもたない断片(fragment)は細胞分裂に際して消失するし, 二動原体染色体は分裂の異常により細胞-致死を招く。このように分裂に際して支障をきたし, 分裂後, 染色体の構成が変化するような染色体異常を, 不安定な(unstable)異常という。これに対して, 染色体数の異常や転座のような形態のうえでは異常であっても分裂に支障がないものを, 安定な(stable)異常という。

ヒトの遺伝的染色体異常疾患として知られているものは, すべて安定型のものである。

染色体の一部または1本全部が消失すれば, 当然遺伝物質の欠損を生じる。相同染色体の一方が欠失したときには, 半接合的(hemizygous)になって劣性遺伝形質が優性として表現されることになり有害である。ネコ泣症(cri du chat)として知られているヒトの異常は, 5番目の染色体の短腕の一部が欠失したものである。転座も多くの場合, 遺伝子の平衡的形質発現に影響を与え遺伝的効果をひきおこす。転座型ダウン症候群(D群染色体と21番目染色体間)の転座がその一例である。奇形児の出産には, このような転座がかなりの原因になることが知られている。

IVトリチウムによるヒトの培養

リンパ球における染色体異常

電離放射線の照射によって前節に述べたすべての型の染色体異常, すなわち, 染色体に数および構造上の種々の異常が誘発されることが, 古くから植物細胞やヒトを含めた動物の培養細胞を用いてよく研究されている6,7)。

また, 種々の放射性核種の内部被曝による染色体異常についても, 多くの研究がなされてきている8)。ヒトの遺伝障害の推定に関連したこの種の研究による特記すべき成果のひとつは, ヒトのリソパ球の染色体異常の種類,出現頻度の線量効果関係のデータの解析に基づく, 放射線被曝者や放射線取扱者などの被曝線量を推定する biological dosimetryの手法の確立であろう9)。しかし, ここになお残された大きな問題点がある。すなわち低レベル(低線量および低線量率)の効果についての詳細な研究は, まだなされていないことである。したがって, 低線量域のリスクの推定は高線量域でのデータから単純な外挿に頼らざるを得ず, 実証的なデータは得られていない。このような背景のもとに, ここで低レベルのトリチウムの内部被曝による染色体異常についてのわれわれの研究結果を紹介する。この研究の目的は, ヒトの培養リンパ球にとり込まれたトリチウムによる内部被曝, 特に可能な限りの低レベルの遺伝的影響の線量効果関係を染色体異常を指標として研究し, またトリチウム水によって誘発される染色体異常の種類とその濃度効果を, 他の3H標識化合物の効果とともに比較検討して, その機構についても解析を加えることにある。

1. 実験方法

健康な成人男子から採血し, 白血球を含む血漿分画を分離する。この分画をMoORHEADらの改良法を用い,PHAを含む合成培地で培養(37℃, 48時間)する。この際, 種々の濃度のトリチウム(トリチウム水, TRS-1第3図放射線によって誘発される染色体異常の種類(SAX, 194G5)) The Radiological Center製およびDNA, RNA, タンパク合成の直接の前駆体である3H一チミジソ, 3H■ ウリジン, 3H一ロイシソ)を培地に加える。培養後コルセミド処理(1×10一6M5時間)し, 蓄積された小リンパ球の第1分裂中期の染色体を, 低張液処理, 固定(氷酢酸1:メチルアルコール3)した後, 引火乾燥法により標本を作製して, ギムザ染色を行なう。染色体異常の分類は研究者によって必ずしも一定していないので, ここでは第4図に示す分類にしたがってデータを解析した。なお, トリチウムの処理液の濃度は10-2μCi/m1までの範囲を, 液体シンチレーションカウンターによって測定されてある。

2. 実験結果および考察

(1)トリチウム水と3H一チミジンによって誘発される染色体異常の濃度効果関係

第1表は種々の3H濃度のトリチウム水と3H一チミジンによって誘発された染色体異常の種類と, その発生率-を示したものである。第5図に, 誘発された染色体異常の例を示してある。いずれの場合もトリチウムによって誘発される染色体異常は, そのほとんどのものが染色分体型の切断であった。トリチウム水の場合, 高濃度域で二動原体, あるいは環状染色体の染色体型の異常が観察された。3H一チミジソの場合には, 高濃度域でもこの染色体型の異常は観察されなかった。この点については,後項で検討する。もっと高濃度のトリチウム水, 3H一チミジンは, 小リンパ球の細胞分裂を阻害する。トリチウム水の場合, 10μCi/mL以上の濃度では, コルセミドに、よって蓄積される第1分裂中期の核板の出現頻度が減少し, 1mCi/mL 第4図 分析に用いた染色体異常の種類では中期核板はほとんど観察されなかった。

第1表の末欄の数値は, 細胞当りの染色体分体の切断数を示したもので, この際, 染色分体間組換えおよび染色体型異常は, 2個の切断が関与しているものとして計算してある。

第6図は, 上記の値を用いて3H濃度と染色体異常の発生率の関係を両対数グラフとして示したものである。

この図で興味ある点は, トリチウム水, 3H一チミジン, いずれの場合もその濃度効果曲線が, ある濃度のところで折れ曲がって, いわゆる二相性を示していることである。トリチウム水の場合, 5μCi/m1以上の濃度のところでは, 濃度効果曲線がy=0. 02DOり95(y=細胞当りの染色分体切断数, D=濃度μCi/mのとなり, 染色体切断の単一ヒット反応をよく反映しているが, 5μCi/ln1以下の濃度では, y=0. C9DO’12のゆるい勾配となる。0. 001μCi/m1以下の濃度では, トリチウム処理を施さない対照区の染色体異常発生率(0. 04)と等しくなり, 統計的な有意差は認められなくなる。

一方, 3H一チミジンの場合は, 3×10-2μCi/mZのところで曲線が折れ曲がっている。高濃度域では濃度効果曲線がy=1. 17DO・70となり, トリチウム水と同様, 単一ヒット型のカイネティックスを示しているが, 低濃度域では}7=0. 13D。・12で, トリチウム水の場合の低線量域での曲線と同様のゆるい勾配となっている。

また, この図から, 3H一チミジンの染色体異常誘発の効果はトリチウム水の場合に比べて, 約100倍ほど高いことがわかる。このことは多分, 染色体異常の直接的標的である染色体DNAに3H一チミジンが特異的に, DNA複製期にとり込まれるためであろうと考えられる。

(2)濃度効果曲線の二相性の生物学的意味

放射線によって誘発される染色体異常, 特に二動原体染色体および環状染色体の線量:効果は2次曲線を示し,これら染色体異常の生成はいわゆるquadraticmodel,すなわちy=C+αD+βD2(r;収量, C;自然誘発頻度, α, β;線量Dの係数)の適用されることが一般に支持されている。この意味するところは, この型の染色体異常の生成には, 放射線の標的への1ヒットおよび2ヒットの事象の両者が混在して関係する, ものとして解釈されている。この1ヒット, 2ヒット事象の相対量は,標的の大きさと放射線の線質により定まると考えられるので, ミクロのレベルでは本質的には2ヒットの事象として解釈される。一方, 放射線によって誘発される他の型の染色体異常, すなわち染色体切断(fragment)の生成の線量効果は, 少なくとも急照射, 高線量の条件下では線質にかかわりなく直線-関係を示すものとして報告され, したがって本質的には1ヒットの事象として解釈されている。しかし, 低線量域でのデータは得られておらず, 高線量よりの推測によらざるを得ない点を指摘しておきたい。以上の結果を基礎におくと, 染色体異常生成の最も単純な生物学的モデルとして, 染色体D-NAの切断が1ヒットの放射線作用により生じ, これが染色体の切断を導く。また, 二動原体, 環状染色体などの交換型の染色体異常の生成は, 2個の染色体DNAの切断によって導かれる, と考えることができる。

さて, トリチウムの内部被曝によるわれわれの実験結果は, 染色分体の切断に関して明らかな2相性の濃度効果曲線を示した。高線量域では, 染色体切断に関する従来の実験結果と同じく, 1ヒットの線量効果を示している。ここに問題となるのは低線量域の線量効果であって, 高線量域の約1/10ヒットの線量効果しか示していない。これに対する解釈として, いくつかのモデルが考えられる。最も妥当な説明の1つは, 細胞自体のもつ放射線障害の修復能力の効果が低線量域で顕著になることによる, と考えることである。すなわち, 低濃度域ではβ線によって誘発される染色体DNAの切断の頻度が低く,したがって, この領域では細胞の修復能力によって切断の大部分が修復されるので, 染色分体の切断頻度は減少する。一方高濃度域では, 細胞の修復能力に比べ, 染色体DNAの切断数が上回ることとなり, 濃度に比例して誘発頻度が上昇すると解釈される。以上の仮設を支持するものとして, 次のようなことが考えられる。すなわち3H一チミジンはDNA複製期に特異的にとり込まれることがよく知られているので, 染色分体の切断のほとんどはDNA中のトリチウムから放出されるβ線によって生じる, と考えてよいであろう。ところで, トリチウム水の場合にも, 水素置換によって核酸の前駆物質にとり込まれることが最近の研究で明らかになっているので10,11),本実験でのトリチウム水の効果が3H一チミジソの約1CO倍ほど低いことは, トリチウム水中のトリチウムのDNAへのとり込みをある程度反映しているとも考えられる。

このようにして, 染色体DNAにとり込まれたトリチウムはDNA鎖を切断するが, 実はその切断の大部分が修復されることが, 最近アルカリショ糖勾配法を用いた分子レベルの研究によって明らかとなってきた12)。

次に考えられるモデルは, 染色分体の切断のためには, その標的に対しいくつかのDNA鎖(単鎖あるいは二重鎖)切断の蓄積を必要とする, 考え方である。このモデルに関連し, 小川・富沢13)の32Pの内部被曝によるλファージ(二重鎖DNA)の不活性化実験が想起される。この研究において, 32P1個の崩壊による二重鎖DNAの同時切断は必ずしもDNA分子の切断を導かず, 約10個以上のヌクレヌクレオチッド対によって保持されることが示されている。

これらのモデルの当否は現在のところ, いずれとも断じがたい。実際には, 染色分体の切断はこれら両者のバランスによって生じていることも充分に考えられる。いずれにしても今後, 外部照射による低レベルの実験との比較検討などを通じ, 本問題の解明に努力したいと考えている。

(3)トリチウムの作用と誘発染色体異常の種類

前述したように, トリチウム水と3H一チミジソによって誘発される染色体異常は, そのほとんどのものが染色分体の切断であって, 染色体型の異常は非常に少ないことが一般的特長である。しかし, 高濃度では, 環状染色体などの染色体異常も認められ, その頻度はトリチウム水処理区の方がチミジソ処理区に比べ有意に高い, ことが観察された。以上のことは, 次のように考えることができる。すなわち, 培養前のリンパ球はすべてG0期にあるが, PHAの処理によってほぼ同調的に分裂に入る。

本実験では全細胞周期, すなわち, G1, S, G2各期を経てM期の全期(48時間)を通じて, トリチウムに連続被曝しているはずである。しかし, 染色分体の切断が圧倒的に多いことから, 染色体が2本の二重鎖DNAになる, S期以降に主としてトリチウムの被曝によるDNAの切断が生じたことになる。このことは前述したように, 3H一チミジンはS期に特異的に取り込まれることによく一致し, またトリチウム水もDNA前駆物質への水素置換を通じて, 主としてS期以降に作用しているのであろう。しかしながら, トリチウム水の場合, 染色体型の異常もみられることは, G1期(1本の染色体が1本の二重鎖DNAよりなる)にも作用しうることを示すものと考えられる(第7図参照)。

第2表に示すように, RNAおよび蛋白質の前駆物質であるウリジン, ロィシソを3Hで標識したものの染色体異常への作用は, トリチウム水と同一の傾向を示した。ただし, これら誘発効果はトリチウム水よりもかなり高い。このことは, これらの物質がG、期にも作用しうることを示し, またG、期はRNA, 蛋白合成のさかんな時期であることとも符合する。事実, オートラジオグラフィー法, シンチレーションカウンター法により,トリチウム水, 3H一ウリジン, 3H一ロイシンが全細胞周期を通じ, 細胞および核にとり込まれるのを確かめることができた。以上の結果を総合すると, トリチウム水はDNA, RNA, 蛋白質の前駆物質を通じて, 主としてS期に一部G、期において染色体DNAに作用を与え, 染色体切断を導くものと考えられる。

Vトリチウムの遺伝効果についての文献的考察

1. 染色体異常

トリチウムによって染色体異常が誘発されることは,古くから知られている。TAYLOR14)が植物 (Bellevalia)の根端細胞で染色体異常が誘発される, 古典的な報告を1958年に発表して以来, 主として3H一チミジソによる染色体異常の誘発が, 多くの動植物細胞を用いて報告されている(ムラサキツユクサ15), タマネギ16), ソラマメ17),ヒトの培養リンパ球18,19)と繊維芽細胞20), チャイニーズ・ハムスタ一細胞21-23), 小カンガルー細胞24), など)。

これらの報告のほとんどのものが, 定性的なものである。実験条件や分析方法が異なっているため, 本実験結果と直接に比較検討することはできないが, 3H一チミジンの効果に限れば, すべての報告で一致している点は,誘発される染色体異常がすべて染色分体型の切断あるいは組換えであることである。オートラジオグラフィ一を併用した報告では, 大部分の異常が銀粒子密度の高い細胞, あるいは染色体に起っていることが示されている。

われわれの予備的実験でも同様の傾向が観察されたが,一部の報告にも述べられているように, 銀粒子の存在しない染色体にも切断が起っていることも明らかである。

トリチウムのβ線の水中での飛程が最大6μmであるとすると, これらの切断が他の染色体にとり込まれたトリチウム, あるいは核内のフリーのトリチウムからβ線によって誘発されたと考えることも可能である。

トリチウム水による染色体異常に関しては, チャイニーズ・ハムスター細胞23)とフタマタ・タソポポ(Crepis)の根端細胞25)で報告されている。染色体異常の種類に関する詳細なデータは記述されていないが, 本実験結果と同様, トリチウム水はこれらの細胞でも染色分体型に加えて染色体型の異常も誘発するようである。

次に, 本実験で得られたトリチウムによる染色体異常の濃度効果の結果を, すでに報告されている結果と比較検討してみる。BREWENとOLIVIERI22)は, 3H一チミジンによって誘発されたチャイニーズ・ハムスター細胞の染色体異常について, 異常の種類別に濃度(線量)効果関係を調べている。誘発される染色体異常はすべて染色分体型の異常で, 染色分体切断(terminal deletion), 両染色分体切断(isochromatid deletion), 染色分体組換え(chromatidexchange>は, すべて直線の濃度効果関係を示すことを報告している。彼らのデータから, 各濃度(0. 63~5. coμCi/mZの濃度範囲)での細胞当りの染色分体切断数を計算して両対数グラフにプロットすると, われわれの結果とよく似た濃度効果直線になる。

DEWEYら23)は, トリチウム水(0. 24~5. 70mCi/m1)による染色体異常誘発の効果を3H-チミジン(C. C3~20μCi/mZ)と60Coのγ線連続照射, (0. 245~1. 44rads/minの線量率)の誘発効果と比較検討して, 次のような結論を得ている。(1)トリチウム水とγ 線の線量効果曲線は, それぞれ線量の1. 9あるいは1. 8乗に比例する2ヒット型の指数曲線を示すが, 3H-チミジンは1ヒット型の直線線量効果関係を示す。(2)細胞当り1個の染色体異常を誘発する効率は3種の放射線で差異が認められないが, 細胞当り2個の染色体異常を誘発する線量はトリチウム水で490rads, γ線で520rads, 3H一チミジンで820radsであり, 3H一チミジンの効果が低くなっている。

3H一チミジンの濃度効果は, BREWEN and OLIVIERIとわれわれの結果とよく一致している。トリチウム水に関する結論は, われわれの結果と異なっているようであるが, 彼らの分析方法を考慮すると, 本質的な差はないと結論してよいであろう。低濃度域と高濃度域の濃度勾配は, それぞれ濃度の0. 2乗と1. 3乗で, われわれの実験結果とよく一致している。ただし, 細胞当り1個の染体切断を誘発するトリチウムの効果は, 両者の報告で異なっており, ヒトの培養リンパ球はチャイニーズ・ハムスター細胞に比較して約30倍ほど感受性が高いようである。次に, われわれの実験結果では3H一チミジンの効果がトリチウム水に比較して約100倍ほど高くなっているが, DEWEYらの報告ではトリチウム水の方が高い効果を示している。この差異は, 実験条件の違いによるものであると考えられる。トリチウム水とγ線の実験は, すべての細胞がトリチウムに被曝する条件で行われているのに対して, 3H一チミジンの場合は, 短期間標識によって処理時にS期にある細胞のみを標識し, しかも染色体全体が標識されていない条件下で実験が行われている。多分このことが, 3H一チミジンの効果を低下させている原因の1つであろう。

2. 遺伝子突然変異

トリチウムによる遺伝子突然変異の研究も, その多くは定性的範囲を出ていない。遺伝子分析の進んだ実験系(細菌, ショウジョウバエ, ハツカネズミ)で, トリチウムの効果に関しいくつか報告されている。細菌(E. coli)で, 3H一チミジンを含むいくつかの3H一標識化合物によって遺伝子突然変異が起ること26), ショウジョウバエでは3H一チミジンや3H一ウリジンによって伴性劣性致死突然変異27~30)あるいは優性可視突然変異(小剛毛形質31))が起ることが, またハツカネズミ32)でも3H一チミジンによって優性致死突然変異の起ることが報告されている。

最近, CUMMINGとRUSSELL33)のグループによって,トリチウム水によっても突然変異が誘発されることが報告されている。彼らは雄のハツカネズミを体重gm当り0. 5あるいは0. 75mCi/m1のトリチウム水で処理して,その子孫での突然変異の発生を7個の特定遺伝子座位(specific locus mutations)で調べている。post spermatogoniaの時期で処理した(430rads相当)7, 942の子孫より11個, sperrnatogoniaの時期に処理した(700rad相当)20, 522の子孫より16個の突然変異を得た。

前者の突然変異率は, X線, γ線の外部照射で期待される価の範囲内であり, 後者の誘発率も低線量率のγ線の外部照射の価の約2倍に相当するものであった。この結果は, 実験個体i数の統計的意味, 被曝線量の推定値の精度を考慮に入れると, 「トリチウムのγ 線の外部照射に対する生物効果比(RBE)は1に等しい」との仮定を否定することはできず, 少なくも2以上の大きな価を越えることはないと考えている。上述したトリチウムの遺伝的効果のRBEに関連し, 遺伝的リスクの推定におけるtransmutation の問題については, 後節にも若干ふれることにする。

VIトリチウムの遺伝的危険度

放射線の遺伝的危険度(genetic risk)を推定するには, (1)人体への被曝量の推定と, (2)被曝量と遺伝的リスクの線量効果関係が2本の柱となるものである。従ってトリチウムの場合も, 単に遺伝的障害の1, 2の形質に関する定性的結果が得られたからといって, また単に被曝量の推定だけによっては, その遺伝的リスクについて云々することはできない。そこで問題となるのはトリチウムの線量効果関係であるが, 遺伝的危険度そのものが実は一般に考えられているような単純な指標ではなくその実体はいわぽ多くの遺伝学的パラメータの, 多次元的な関数のうえに成り立っているものなのである。しかし, ここでは遺伝的危険度の推定体系, その構造, 換言すれぽ遺伝的リスクの評価モデルそのものについては詳細な論述をするわけにはいかないので, 主としてわれわれの研究結果を素材にしながら, 低レベルトリチウムの遺伝的リスクの一般的問題を考えてみることにしたい。

われわれの研究の最もユニークな点は, ヒトのリンパ球細胞を実験材料とし, 染色体異常の1つの型である染色分体の切断を遺伝障害の指標として, 「トリチウムの許容量付近のきわめて低レベルの濃度より高濃度のレベルに至る, 線量効果関係の詳細な定量的データを得た」ことにある。ここではまず問題となるのは, 染色分体切断の遺伝的危険度の指標としての意義であろう。前述したように, 染色体異常(染色体突然変異)は遺伝子突然変異とともに遺伝障害の2大素因であることは, 確立された事実であるといってよい(被曝直後の次代を考えるときに染色体異常の寄与がむしろ大きいとも考えられている)。本実験では, その染色体異常の指標として不安定型で非交換型の染色分体切断が, 染色体異常の指標として用いられた。その理由は安定型で交換型の転座の誘発頻度が低く, このため低レベルの研究に適せず, また転座の判定に技術的困難を伴うので, 判定に問題のあるためであった。しかし, 染色体異常の遺伝的リスクとして意味のあるのは, 実は安定型(特に転座)のものであって, 染色分体切断のような不安定型の異常では直接ないことである(染色分体切断は細胞分裂の過程を通じて失われ, 後代には伝達されない)。そこで, 遺伝的リスクの指標として, 染色分体切断がその意義と有効性を保つためには, 種々の型(安定型一不安定型, 交換型一非交換型)の染色体異常の量的相互関係の推定を可能にする解析的知見が必要となる。現在このことについて, いくつかの興味ある知見が得られつつある。したがって, これに基づいたある種の推定は可能であるが, 定量的目的のためには, まだ充分信頼できる域に到達していないと考えた方が多分穏当であろう。それにもかかわらず, 特にここで指摘しておきたいのは, 転座のような不安定型の染色分体異常であっても不安定型の染色分体切断と同様に, 染色体DNAの切断がその出発点になる事実である。したがってこのことは, 生の数値としても染色分体切断は, 染色体異常一般の遺伝的リスクの上限を示す指標(したがって安全側の指標)として, その役割と意義を充分に有すると信じてよいと思われる。また, 遺伝子突然変異は, 染色体切断の修復の誤りに起因する可能性も存在するので, このことも, 染色分体切断のリスク推定上の意義を強めていることを付記しておきたい。

ついで問題となるのは, 本実験ではヒトの体細胞であるリンパ球を実験材料に選んだことである。この理由は, ヒトについての染色体異常の実験的データを得るために最も適当な材料であるからである(外部被曝その他について彪大な知見がすでに存在する)。実験動物のデータからヒトの遺伝的リスクを推定するとき(ヒトを材料として精密な定量的実験データを得ることは一般にきわめて困難である), いつも問題となるのは実験動物とヒトとの間に存在するギャップ, すなわち生物種差の問題であった。しかし, 本実験はヒトの細胞を材料としているので, この種の難点の無視できることが本研究の大きな狙いでもあった。ただ, 遺伝的リスクの対象となるのは, リンパ球のような体細胞ではなく, 生殖細胞での異常とその伝達である。したがって, ここで体細胞と生殖細胞での染色体異常の誘発頻度の量的関係の細胞種差が問題となる。この問題について, ごく最近に2, 3の知見が得られつつあるが, 信頼できる量的推定を行うのには, まだ問題があると見てよいだろう。しかし, 控え目に見ても, 生殖細胞での染色体異常の頻度が体細胞でのそれより上回るとは現在の知見では考えにくい。しかも本実験では, 処理後の第1分裂中期で観察しているので, 細胞分裂に伴う染色分体切断の伝達のロスは考えられず, ここに示された数値は, 生殖細胞においても,予期される染色体異常の上限値を示すと受けとって多分よいと思われる。マウスの優性致死(転座によると思われる)の研究34)の今後の進展により, この点についての示唆を与えることが期待される。

さて, 上述の制約を念頭におきながら本実験の線量効果関係の結果について考えてみたい。最も特長的なことは, 濃度効果曲線が二相性を示したことである。この結果をリスク推定の立場から考えると, もし高濃度域の直線性から低濃度域での効果を推定するなら, 2μCi/m1の濃度で自然発生頻度の染色分体切断頻度(約0. 4%)と等しくなる。しかし, 実験データの示すところでは, この濃度での頻度は自然発生頻度の2倍となっている(倍加線量の濃度)。さらに, 現在, わが国での許容量(2×10-3μCi/mJ)は低濃度のゆるい勾配の領域の中にあるので, レたがつて高濃度域からの外挿による推定では許容量付近の染色分体切断の真の価を見誤まることになる。すなわち, 許容量付近のきわめて低いレベルの線量効果を高線量の効果から推定する際には, 充分な考慮の必要なことを示すといえよう。リスク推定の外挿からすると, 本実験の示す染色分体切断の数値は, あくまで染色体異常の遺伝的リスクの上限値であることにあらためて念をおしておきたい。また実験条件からして, 本実験でのトリチウム濃度は, 周囲環境の濃度ではなく, 人体の細胞内での濃度と考えるべきことは言をまたない。厳密な意味での量的なリスクの推定には, 多くの問題に注意すべきである。

最後に, 遺伝子突然変異の問題に一言しておきたい。遺伝的リスク推定の観点からすると, CUMMINGと

RUSSELLらの実験がほとんど唯一一のトリチウムについて考察となるデータである。もし, 彼らの解釈が正しいとするなら(RBEは2より大きくない), たとえ被曝線量の推定に多少の技術的問題があるにしても, transmutationの効果はほとんど重視しなくてよいことになる(微生物, ショウジョウバエの実験結果と一致する)。これは, トリチウムのリスクを考えるときに重要である。ただし低レベルの濃度効果については, マウスでは実験的にほとんど不可能であり, 新しい実験法の開発が必要とされる。

VIIおわりに

低レベルのトリチウムの遺伝的効果について, 主として, ヒトのリンパ球の染色体異常に関するわれわれの実験結果をもとにして論じてみた。遺伝学の専門外の方には, いささか難解であったと思う。これは本文中にも蓋しておいたように, 遺伝的リスクの成立体系が多次元の多くのパラメータからなり, 単純でないためである。これは最も高次複雑なヒトについて, しかも, リスクの推定という予測を含む以上当然であるといえる。しかし,遺伝学の原理の最近の進歩は, 解析的, 実験的方法によるシステム的アプローチが充分にな:されれば, これを可能にしていると思われる。われわれの研究は, 直接低レベルでの実証的データによって, トリチウムの遺伝的リスクの推定のための1つの目安を与えたと信ずる。しかし, 本文中に記したように, この値は染色体異常の一リスクの上限値を示しているのに過ぎない。リスク推定の際必要とされる信頼度の高い, またより精度の高い推定値を得るためには, 今後多くの問題解決を必要とする。たとえば, 姉妹染色分体交換(sister chromatid exchange)35)などの鋭敏な方法によって, また遺伝子突然変異の新しい検出法を開発して, 低レベルの実証的データを得ること。また, 本文中に記したいくつかの問題(細胞種差および種々の型の染色体異常の相互関係)の解明のため,たとえば霊長類を用い, 生殖細胞の染色体異常を体細胞のそれと比較検討することなどが当面の課題といえよう。また, 二相性の機構の解明など, 基礎的, 解析的な研究の側面もゆるがせにできない。遺伝的リスクの解明は, 遺伝子・染色体など, ヒトを含めた生物の, 生命としての基本的ユニットを取り扱うがゆえに, 身体的リスクの課題についてもまた多分に示唆するところが多いと信ずる。

本文中に示したヒトのリンパ球による染色体異常の実験は, 放医研の特別研究「低レベル放射線の遺伝的障害の研究」および「トリチウムの生物影響に関する調査研究」の一環として実施されたものである36,37)。本実験の遂行に当り, トリチウム取り扱い, その他に援助をいただいた。当研究所, 樫田義彦博士をはじめ, 環境衛生研究部の諸氏に感謝の意を表します。

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トチリウム資料3 極めて低線量のトリチウム被ばくによるヒトリンパ球で誘導された染色体異常の、普通ではない線量―応答関係 堀雅明 中井斌 1978年   [訳]川根眞也 

[解説]日本の再処理施設の最初の運転は、1977年9月に茨城県東海村にある動力炉・核燃料開発事業団(動燃)(現、日本原子力研究開発機構)東海再処理施設において、日本原子力研究所(原研)(現、日本原子力研究開発機構)動力試験炉(JPDR)の使用済核燃料を用いたせん断から開始されました。この頃から使用済み核燃料棒を切った時に、大量に放出されるトリチウム水蒸気の人体への健康影響が問題となっていました。

 この資料「極めて低線量のトリチウム被ばくによるヒトリンパ球で誘導された染色体異常の、普通ではない線量―応答関係 堀雅明 中井斌 1978年」は、この極低線量のトリチウムが人体のDNAに与える影響についての研究成果について書かれた論文です。原論文は英文で、翻訳者が日本語に訳したものです。誤訳等の責任はすべて翻訳者、川根眞也にあります。

 この資料の中での結論は

「我々はまさしく低線量域での細胞あたりの染色分体切断数において、変わった線量―応答関係を観察しました。トリチウム水と[3H]チミジンへの低い線量域での暴露により、高い線量域で見られる直線的な線量―応答関係を低い線量域に延長することによって期待される異常数より多い異常数が生じました。」

 つまり、トリチウムの極低線量での細胞あたりの染色体切断(がん化につながりうる)は、LNT仮説に従うよりも多かった、と書いてあるのです。LNT仮説とは、被ばく線量とがんなどの健康被害とは比例関係にある、という仮説です。数万ベクレル/Lのトリチウムを体内に摂取することは可能性として低いのですが、数100ベクレル/Lのトリチウムを今回の「処理水」から摂取する魚や海藻類はあるかもしれません。高線量での健康被害から低線量での健康被害を類推するのは、不適当だということを示しています。数十万、数百万ベクレルのトリチウムでDNAが傷つき、がん化する恐れがあるのだから、数百ベクレルのトリチウムでは健康影響はない、とするのが国際放射線防護委員会(ICRP)や国連科学委員会(UNSCEAR)の立場です。日本の原子力規制委員会も同様な立場です。

 しかし、かつての放射線医学総合研究所遺伝研究部が行った実験では、極めて低線量のトリチウム水37ベクレル/Lでも、対照群(コントロール、と呼ばれる)よりも多い染色分体異常が観察されています。「低レベル・トリチウムの遺伝的効果について特に染色体異常を中心に 堀雅明 中井斌 保健物理 1976年」

 この資料には、トリチウム水37ベクレル/Lについての染色分体異常についてのデータはありません。同じ実験についての論文でありながら、このMutation Research(突然変異研究), 50 (1978)からは削除したものと思われます。

資料4 「低レベル・トリチウムの遺伝的効果について特に染色体異常を中心に 堀雅明 中井斌 保健物理 1976年」

 ちなみに、現在、放射線医学総合研究所では遺伝研究部は廃止されています。「放射線で人間の遺伝子が傷つくことはない」とでも言うかのように。本来、放射線医学総合研究所は、1954年のビキニ事件でのマグロ漁船の乗組員の被ばくをきっかけに、放射線の人への影響研究を行うために設置されたものです。また、原子力の利用や放射線、放射性物質の安全に使用するために設置されたものです。それが、原子力利用に不都合な研究は行わないように変質しています。

 放射線医学総合研究所は放射線による極低線量被ばくの人への影響を研究し、公表するべきです。

[資料]

極めて低線量のトリチウム被ばくによるヒトリンパ球で誘導された染色体異常の、普通ではない線量―応答関係

堀雅明 中井斌

放射線医学総合研究所、遺伝研究部、千葉市穴川4-9-1 〒280、日本

1977年3月3日原稿受付

1977年10月11日改訂版受付

1977年10月28日受理

Mutation Research, 50 (1978) 101―110 © Elsevier/North-Holland Biomedical Press

原論文

UNUSUAL DOSE–RESPONSE OF CHROMOSOME ABERRATIONS INDUCED IN HUMAN LYMPHOCYTES BY VERY LOW DOSE EXPOSURES TO TRITIUM TADA-AKI HORI and SAYAKA NAKAI 1978年

翻訳 川根眞也 2021年4月11日

概要(Summary)

人間の末梢血の白血球培養組織を、48時間慢性的に広い線量域にわたって、トリチウム水または[3H]チミジンのトリチウムに被ばくさせ、リンパ球の最初の細胞分裂中期の染色体の異常を調べました。そして、この実験の条件においてトリチウム水と[3H]チミジンから照射される放射線から誘発される異常は、大部分は染色分体型異常(例えば染色分体ギャップと切断)でした。細胞あたりの染色分体切断についての線量―応答関係は、トリチウム水または[3H]チミジンの両方のケースで変わった線量依存関係を示しました。高い線量域での細胞あたりの染色分体切断の産生頻度は線量に応じて直線的に増加したにもかかわらず、低い線量域での細胞あたりの染色分体切断の産生頻度は、この高線量域の直線的な線量―応答関係を低い線量への外挿により期待される産生頻度よりも明らかに多く観察されたことが分かりました。極めて低い線量域での被ばくにおいては、部分的ヒットもしくは部分的ターゲットの動力学現象が起きることが観察されました。

はじめに(Introduction)

トリチウムが環境中に存在することによる人への潜在的危険を評価することは、原子力産業がますます発展している中で非常に重要になっています。原子炉から発生するトリチウムは、素早くそして一様に生体系内に分布するトリチウム水となって、素早く生体圏に低い線量レベルで入っていきます[14]。これに加えて、トリチウム水に含まれているトリチウムは、さまざまな放射線影響を受けるもっとも敏感なターゲットであるDNAが含まれている、代謝活性のある高分子に取り込まれることが証明されました[7、20]。[3H]チミジン(チミジンはDNAの前駆体の1つ)から放出されたベータ線による遺伝的影響は、植物[13、15、19、24]と動物[3、5、6](人[1、2、16、21]を含む)について、染色体異常に関して特によく研究されています。トリチウム水からのベータ線により、染色体異常が起きることも示されました[3、11]。しかし、危険性評価のため、特に低い線量での影響評価が重要であるにもかかわらず、トリチウムによって誘発された染色体異常の線量―応答関係についてのデータがほとんどありません。

この研究は、トリチウム水および[3H]チミジンによって照射されたことで誘発される、ヒトリンパ球における染色体異常についての、広い線量範囲での定量的なデータを得るために行われました。ヒトリンパ球は、生体においても(in vivo)また試験管内の生体外の実験系(in vitro)においても、染色体異常を引き起こすことができる極めて敏感な生物指標であり、また、ヒトにおける染色体異常の研究の唯一実行可能なテスト・システムでもあります。ヒト末梢血の白血球培養組織は48時間、トリチウム水と[3H]チミジンに慢性的に被ばくさせられました。そして、最初の細胞分裂中期にヒトリンパ球染色体の異常が調べられました。

実験対象と方法(Materials and methods)

培養方法(Culture methods)

この研究で記述されるすべての実験では、我々は、1人の健康な成人男性の提供者から採取された人間のリンパ球の培養組織を使いました。静脈血は無菌ヘパリンで凝血防止された注射器に採血され、その後、白血球を含んでいる血しょう分画が集められました。白血球培養は、ファルコン・プラスチック培養試験管(16×125mm)の中で、血しょう分画(0.5mL)を加え、MEMイーグル(ギブコ; 4.5mL)の培養基に入れました。胎児の子牛血清(ギブコ; 10%)、フィトヘムアグルチニン(PHA-M.ディフコ; 2%)、そして、抗生物質を追加しました。

トリチウム水と[3H]チミジンによる照射(Irradiation with tritiated water and [3H]thymidine)

 培養を始めると同時に、トリチウム水(放射化学センター、英国)と[3H]チミジン(ニューイングランド原子力機関、米国:比放射能2Ci/m mole)が培養組織に加えられました。そして、すべての培養組織はリンパ球がトリチウムに慢性的に被ばくするように48時間、37℃で培養されました。培養組織のトリチウムの濃度は、液体シンチレーションカウンター(ベックマンLS230)で、培養基とトリチウム水と[3H]チミジンの最初の貯蔵液を放射能分析することによって決定されました。トリチウム水の濃度は、10-3 μCi/mLから102μCi/mLまでの範囲のものを使いました。これは1.2×10-2mRラド/h~1.2ラド/hの線量率を生じると計算されました。[3H]チミジンの濃度は、10-3(1.2×10-4μg/mL)から10μCi/mL(1.2pg/mL)の範囲でした。

染色体異常の染色体準備とスコアリング(Chromosome preparation and scoring of chromosome aberrations)

培養開始から43時間後で、コルセミド(10-6M)が培養組織に加えられました、そして、5時間後に、培養細胞は収集されました。

(編集者注)コルセミドとは

細胞分裂の際には紡錘糸というものが形成されて、この紡錘糸が染色体の中心部で染色分体と染色分体とをつないでいる動原体に結びつき、紡錘糸が動原体を両極に引っ張ることで細胞分裂が行われます。コルセミドはこの紡錘糸の形成を阻害します。このことにより、細胞分裂を細胞分裂中期(M期)で停止されることから染色体のようすを観察することができます。

培養基の放射性物質を洗い流した後に、細胞は低浸透圧溶液で処理されました(0.5%のクエン酸ナトリウム、0.1%のKC1、0.2%のNaC1、そして、0.1%のブドウ糖)。その後、氷酢酸とエタノール(1:3、v/v)の混合物で固定されます。冷やされた湿式スライドガラスに細胞分裂停止液を2、3滴滴下し、染色体は引火乾燥法で広げられました。空気乾燥の後、スライドはゼーレンゾンリン酸塩緩衝液(pH 6.8)で希釈した、3%のギムザ液で染色されました。細胞分裂中期の形状は丸い視野の範囲で低拡大倍率(100×)の下で選び観察しました。そして、46の動原体を含んでいる細胞分裂中期の形状だけは油浸オイル法(1000×)の下で調べられました。染色体型異常は、二動原体染色体と環状染色体と分類されました。この研究では、二動原体染色体と環状染色体のいずれかしか観察されなかったため、無動原体断片は観察されませんでした。染色分体型異常は、染色分体ギャップ、染色分体欠失と染色分体交換とに分類されました。同腕染色分体型異常も同様に、同腕染色分体ギャップと同腕染色分体欠失とに分類されました。染色分体欠失は、染色分体断片の置き換えが起きているギャップと区別されました。

この研究において、細胞あたりの切断数が、染色体異常の指標として使われました。細胞あたりの切断数を計算すると、二動原体染色体、環状染色体と染色分体交換はこの実験ではごくまれに観察されませんでしたが、2種類の切断数として分類しました。一方、染色分体ギャップと染色分体欠失は、もっとも観察された主要な異常でしたが、我々はこれらを1つの切断数に分類しました。同腕染色分体異常もその発生起源が明らかではないので、1つの切断数に分類して数えました。

DNA合成および有糸分裂指標のオートラジオグラフィ分析(Autoradiographic analysis of DNA synthesis and mitotic indices)

白血球培養組織は、PHA刺激の時に加えられた[3H]チミジン(0.5μCi/mL)によって、48時間継続的に標識されました。

(編集者注)PHAとは

 かつてリンパ球は小さな円形状の核と幅が狭い細胞質をもち、細胞小器官にも乏しい特徴が少ない細胞であるところから、分裂も分化もしない成熟しきった細胞であると考えられていました。

1960年Nowellらは、末梢リンパ球を五月ささげより抽出されたPHA(phytohemagglutinin)と共に数日間培養すると、リンパ球は大型化し、かつ幼若化し、多数の分裂像が観察されることを明らかにしました。PHAを加えたリンパ球培養が染色体分析に極めて有用であることを報告しました。

このようにPHAはリンパ球を幼若化する働きを持っています。(河野均也 リンパ球培養の臨床的応用 第185回順天堂医学会学術集会 1973年5月17日)

さまざまな細胞周期ごとに細胞は集められて、氷酢酸とエタノール(1:3、v/v)の混合物で固定され、オートラジオグラフィで分析されました。スライド標本は、1:1に希釈された写真乳剤(NR-M2、サクラ)に浸されました。空気乾燥の後、スライドは3~5日の間暴露されました。

スライドは5分間コレクト―ル(富士)現像剤で現像され、20℃で15分の間フィクサー(富士)定着剤で固定され、それから、3%のギムザ液で染色されました。DNA合成の標識指標と分裂指数は、総数5000以上の単核細胞から決定されました。

結果(Results)

この研究において、白血球培養組織は48時間トリチウム水もしくは[3H]チミジンに慢性的にさらされました。そして、リンパ球染色体の異常は、分裂停止剤コルセミドで5時間の処理の間に蓄積された細胞分裂中期の像から調べられました。人間のリンパ球の培養は試験管内(in vitro)で多くの要因に依存している複雑なシステムであるので、適切な解釈のためには実験的な状態における細胞分裂周期パターンを知っていることが重要です。DNA合成が完了した結果とMEMイーグル培地の中でPHA刺激により開始された培養組織の分裂指数は、図1に示されます。

DNA合成の初期は、培養開始24時間後という早い時期に見つかりました。DNA(標識化された指標)を合成している細胞の頻度は、連続的に増加して、48時間で20%まで達しました。

最初の有糸分裂は培養開始およそ40時間後に起こり、有糸分裂の指標は48―50時間後に最大の0.25%になりました。

若干の細胞が有糸分裂段階に入ったとき、他の細胞はまだS期でDNAを合成していました。

これらの結果は、PHA刺激後のリンパ球が非同期的に細胞周期を行うことを暗示しています。

細胞が48時間継続的に[3H]チミジンに標識され、細胞中期の染色体のオートラジオグラムが準備されたとき、両方の姉妹染色分体の分布密度と同じ密度で銀粒子があるとわかりました。

表1 トリチウム水および[3H]チミジンによって誘発されたヒトリンパ球の染色体異常の種類と頻度

縦の欄 処理方法 対照群 トリチウム水 [3H]チミジン

横の欄 被ばく線量(μCi/mL) 実験細胞の数 異常細胞の割合 染色分体異常のタイプ(染色分体ギャップ 染色分体切断 同腕染色分体ギャップ 同腕染色分体切断 染色分体交換) 染色体異常のタイプ(二動原体 環状) 細胞あたりの染色分体切断の割合(±標準偏差)

脚注a 標準偏差は、ポアソン分布に従うと仮定して計算されました

図1

PHA刺激を受けた後、DNA合成している細胞の頻度(標識化された細胞の割合)と有糸核分裂細胞の頻度(有糸分裂した細胞の割合)。3種類の培養組織は培養開始から継続的に[3H]チミジン(0.5μCi/mL)で標識されました。そして、その時刻ごとに細胞はオートラジオグラフィのために固定されました。

横軸 時間(時)

縦軸 左 標識化された細胞の割合(%) 右 有糸分裂した細胞の割合(%)

有糸分裂がDNA合成と同期していないにもかかわらず、細胞中期の染色体の異常があるかないかすべてをオートラジオグラフィで確認することが実験後の最初に行われました。この結果は5-ブロモデオキシウリジン(BUdR)―ギムザ法に基づいて行った我々の未公表データと一致しており、この実験と同様な条件下で行った2回目の有糸分裂の頻度についてはほとんど無視できる結果となりました。

 トリチウム水と[3H]チミジンによって誘発される染色体異常の種類と頻度に関するデータをまとめたものが表1です。与えられた線量ごとの異常数は、少なくとも2種類の実験から得られ、また、その数はそれほど異なるものではありませんでしたが、それぞれの線量ごとに計数されました。トリチウムによって誘発される染色体異常の種類は、大部分は染色分体型異常、例えば染色分体ギャップおよび染色分体切断、でした。トリチウム水と[3H]チミジンによって誘発される染色体異常のタイプは、そのほとんどが類似していましたが、染色体型異常に関してはトリチウム水で標識された細胞でより多く観察されました。[3H]チミジンによって誘発される染色体異常は、もっぱら染色分体型でした。これはS期のDNA複製の間に[3H]チミジンが染色体DNAに取り込まれるという事実から、染色体の複製が行われる後にだけ[3H]チミジンの影響を受けることが期待されます。一方、トリチウム水で標識された細胞では、染色体型異常の少ないけれども明からな増加が観察されました。細胞分裂の時期に関係なく、トリチウム水のトリチウムは細胞の中に素早く、そして一様に入っていくので、G0期あるいはG1期に細胞の染色体DNAと接触したトリチウムにより、染色体型異常が誘導されるかもしれません。これらのトリチウムで標識されたヌクレオシドが、RNA合成とタンパク質合成が活発に行われているG1期で細胞に取り込まれたとき、[3H]ウリジンおよび[3H]ロイシンもまた、染色体型異常も引き起こすことが、我々の予備研究の結果で実際に示されています[8]。

<編集者注>チミジンはDNAの前駆体であるのに対して、ウリジンはRNAの前駆体、ロイシンはタンパク質の前駆体です。

細胞あたりの染色分体切断の割合を計算したものが、実験対象と方法(Materials and methods)表1の最後の欄に記載されています。トリチウム(μCi/mL)の被ばく線量と細胞あたりの染色分体切断数(対照群の同切断数を差し引いています)との関係は図2に示されています。線量に対する切断数は対数目盛で示されています。[3H]チミジンは、トリチウム化水よりおよそ100倍染色体異常を生じる効果的があるように見えます。被ばく線量は細胞培養の際のトリチウム濃度を意味するので、[3H]チミジンの一見の高い線量効果はトリチウムが染色体DNAに取り込まれることによる非常に局所的なベータ線照射によって引き起こされた、と解釈することができます。

 その線量―応答関係は両方のケースで変わった曲線を描きました。これは注目に値します。染色体異常が生まれる率はトリチウム水の場合は5μCi/mL以下で、[3H]チミジンの場合は5×10-2μCi/mL以下でそれぞれより少なくなっています。我々はこの2つの曲線について、べき乗数則(the power low model)Y = k D nに基づいて、最小二乗法回帰分析を行いました。Yが細胞あたりの染色分体切断数であり、DはμCi/mLで表された被ばく線量、kとnは定数です。

図2 トリチウムによる被ばく線量(μCi/mL)と細胞あたりの染色分体切断数との関係(対照群の切断数を差し引いてある)白い丸がトリチウム水を示し、黒丸が[3H]チミジンを示します。べき乗則に基づき実線を引いてあります。

縦軸 処理方法 トリチウム水 [3H]チミジン

横軸 被ばく線量の範囲(μCi/mL) 定数k 定数n 適合度(x d.f. P)

対数変換すると、この関係は直線、log Y =log k+ n log D となります。表2で示すように、べき乗数則は、データに極めて良く適合しています。統計分析のこれらの結果から、我々は、48時間のトリチウムへの慢性暴露によって誘発される染色体異常の線量―応答関係は、2つの要素を持っているととりあえず結論しました。高い線量での線量―応答関係では、線量D のべき指数nは、トリチウム水では0.953と[3H]チミジンでは0.790と1.0から大きく外れず、線量に対する細胞あたりの切断数が線量に直線的に依存することを示しています。P値については、トリチウム水では0.1>P> 0.05、[3H]チミジンでは0.3>P> 0.2でした。しかし、低い線量の範囲では、線量D のべき指数nがトリチウム水では0.380、[3H]チミジン0.338であり1.0からかなり逸脱して、明らかに線形動力学に当てはまりません。このときP値はP < 0.001でした。したがって、部分的ヒットまたは部分的ターゲットによって引き起こされることが明らかになりました。トリチウム水と[3H]チミジンにいずれにおいても、細胞の染色分体切断の数は、いずれの線量においてもポアソン分布を示しました。ただし[3H]チミジンの50μCi/mLおよび10μCi/mLの2つのケースは例外です。ここでは選択的な細胞死が恐らく起こるかもしれません。したがって、極めて低い線量の範囲で示された変わった線量依存関係は、染色体異常の偏った記録とする根拠にはならないかもしれません。

それに加え、今回の実験条件では分裂遅延がなかったことから、非常に低い線量において見られた、線量―応答の曲線関係は、細胞周期の感受性の高さや高い線量域でカイネテックスにより引き起こされた分裂遅延の影響[3]が原因とは考えられません。

討論(discussion)

放射線への暴露によって人間のリンパ球で染色体異常が誘発されることは、現在確立された学説です。しかし、大部分はX線とガンマ線による影響研究にあてられ、内部放射線の影響についての研究は比較的少ないです。1958年以降、何人かの研究者によって、トリチウムが、特に[3H]チミジンの形で、植物[13、15、19、24]と動物[3、5、6]で染色体異常を引き起こすことが示されました。[3H]チミジンの瞬間的な暴露によって人間のリンパ球に染色体異常が誘導される2つの研究報告がすでにありました[2、21]。これらは、[3H]チミジンの一回の投与だけで行われたむしろ定性的な研究結果です。我々が行った実験条件では、トリチウム水と[3H]チミジンへの慢性暴露によって誘導される人間のリンパ球の染色体異常の種類は、大部分は染色分体型異常のタイプでした。この結果は、上記の他の研究報告と一致しています。線量に対してプロットされた細胞あたりの染色分体切断を対数―対数目盛りでグラフ化すると、線量―応答関係は2つの構成要素をもつ変わったカーブを描きました。この2つの構成要素の統計学的分析をすると、トリチウム水と[3H]チミジンの両方の実験から得られるデータはべき乗数則(the power low model)がもっともフィットすることが分かります。高い線量範囲では、線量D のべき指数nの推定値は、1.0からは外れません。これは、染色分体切断が直線的な線量依存性をもつことを示しています。染色分体異常の直線的な線量依存性は、すでにチャイニーズハムスター細胞で示されています。[3H]チミジンの3×10-2~20μCi/mLの線量範囲によって誘発される染色分体異常は線形カイネティクスに従いますが、ところが、トリチウム水の240―5780μCi/mLの線量範囲、および60Coガンマ線の140—865radの線量範囲では、純粋に線量の二乗に比例(それぞれ線量の1.8乗と1.9乗)であったと、デューイら[5]は報告しました。ブリューエン(Brewen)とオリベイリ(Olivieli)もまた[3H]チミジンの0.625―5.0μCi/mLの線量範囲で、さまざまな染色分体異常で直線的な線量―応答関係を見つけています。細胞のタイプが違い、また、トリチウムへの被ばく状況が違うため、これらのデータと我々の実験結果とを直接比較することはできません。彼らが使った線量範囲が考慮に入れられるならば、それでも、[3H]チミジンによって誘発された染色分体異常の線量―応答関係は基本的に線形動力学に従うようだと、通常、述べることができます。我々が観察したトリチウム水が直線的な線量依存関係を示したのとは異なり、チャイニーズハムスター細胞の結果では、20~40%の染色体交換のタイプを含む染色分体異常数が線量Dの1.8乗で増加しています[5]。この違いの1つのあり得る説明は、使われる線量範囲の違いによると推測することができます。チャイニーズハムスター細胞の研究において使われた線量範囲は、この研究の0.58mrad ― 57.6radより高く、23―554radでした。X線とガンマ線によって誘発される染色体異常の染色体交換タイプの線量―応答関係のデータは、通常、よく直線2次曲線モデルになります[10、12、23]。

低い線量域では線量Dの2次項が減少しているのに違いないので、低い線量域では線形動力学に基づくのは予想外でありません。このことにより、トリチウムのベータ線照射による慢性被ばくの性質を、低線量率被ばくと名付けることができます。我々はまさしく低線量域での細胞あたりの染色分体切断数において、変わった線量―応答関係を観察しました。トリチウム水と[3H]チミジンへの低い線量域での暴露により、高い線量域で見られる直線的な線量―応答関係を低い線量域に延長することによって期待される異常数より多い異常数が生じました。べき乗則モデルから推定される線量Dのべき指数は、部分的なヒットもしくは部分的な目標を示す直線的な動力学からかなり外れています。この研究では極めて低い線量域でなぜ線形の線量―応答関係から逸脱するのか、その原因についてはいかなる説明も許されません。しかし、高い線量域のデータから推測される線量―応答関係からの同じような逸脱が、他の研究においても、染色体異常に関する研究[4、10、12、17、18]だけでなく、微小核形成[9]や、突然変異と発癌の生成に関するもの[22]からも、得ることができると言えるかもしれません。したがって、さまざまなタイプの遺伝子損傷を引き起こす上では、直線的な線量―応答関係から想定されるより、極めて低線量の照射の方がより効果的であるのではないか、と仮定することができます。極めて低い線量域における効果を説明するメカニズムは、さまざまな研究から推定される部分的ターゲット動力学ですが、この研究において分かった変わった線量―応答関係に基礎をおいたメカニズムは、放射線が染色体DNAに一時的損傷を与えた後、誘導されたDNAのエラーをチェックするメカニズムが働くまでの間の、臨界点における相互作用の結果であると説明することができるかもしれません。極めて低い線量域における放射線の効果について、その性質を明らかにするには更なる広範な研究が必要です。放射線に敏感であるか、修復のメカニズムが欠損している、遺伝子異常のさまざまな種類の細胞の活用は、基本的な問題の解決のヒントを提供します。実際的な見解から、我々と他によって行う実際の試験から得られる結果が強く示唆しているのは、特に非常に低い線量域で突然変異誘発性薬品の遺伝子リスクを評価することが必要だ、ということです。

謝辞(Acknowledgments)

K.ミゾブチ博士とM.ヒライ氏からいくつかの刺激的な議論をしていただき、またJ.モリヤ氏には技術協力をしていただいたことに感謝します。Y. カシダ博士にはトリチウム水取扱いについての役に立つアドバイスをいただきましたことに感謝します。

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Biol.. 21 (1972) 389–396.

11 Kuroiwa, T., and N. Tanaka, Effect of THO-water on Crepis chromosomes, Jap. J. Genet., 47 (1972)

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12 Luchnik, N.V., and A.V. Sevankaev, Radiation-induced chromosome aberrations in human lymphocytes,

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(1976) 363–378.

13 McQuade, H.A., and M. Friedkin, Radiation effects of tbymidine-3H and thymidine-14C, Exptl. Cell

Res., 21 (1960) 118–125.

14 Moghissi, A.A., and M.W. Carter, Tritium, Messenger Graphic Publishers, Phenix, Arizona and Las

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15 Natarajan, A.T., Chromosome breadage and mitotic inhibition induced by tritiated thymidine in root

meristems of Vicia faba, Exptl. Cell Res., 22 (1961) 275–281.

トリチウム資料2 原子力関連施設周辺での環境トリチウムモニタリングの実際 柿内秀樹,赤田尚史 2013年 

[解説]トチリウムは自然にも地球上でできているから、安全だとか根拠もなく語る「トリチウム研究の科学者」がいます。事実は違います。宇宙線により、地球上の大気(窒素や酸素)が崩壊させられてトリチウム(放射性水素)が作られていますが、その量は微量であり、また、地球大気中の均一に分布しています。

 一方、米ソの大気圏内核実験により、ありえないほどのトリチウムが環境中にばら撒かれました。この「原子力関連施設周辺での環境トリチウムモニタリングの実際」にはそのことも書かれています。更に、原発が生み出す「使用済み核燃料」からプルトニウムを取り出す、再処理によって、大量のトリチウムが水蒸気として大気中に放出され、また、水として海洋の放出されてきました。イギリスのセラフィールド再処理工場、フランスのラ・アーグ再処理工場のトリチウム放出量は、今回海洋放出されようとしている福島第一原発の「処理水」中のトリチウム量を超えます。

 米ソの核実験によるトリチウムの放出も、イギリス、フランスの再処理によるトリチウムの放出も、人々のがんや白血病を増やしてきた、と編集者は考えます。トリチウムのもたらすDNA損傷については、以下の資料もご覧ください。

 自然界で作られているトチリウム以上に、人間がトリチウムを作り出し、地球環境に放出することは犯罪である、と考えます。

 かつて、環境と開発に関する国連会議(環境サミット,1992年)で当時12歳だったセヴァン・カリス・スズキはこう語っています。

「死んだ川にどうやってサケを呼びもどすのか、あなたは知らないでしょう。絶滅した動物をどうやって生きかえらせるのか、あなたは知らないでしょう。そして、今や砂漠となってしまった場所にどうやって森をよみがえらせるのか、あなたは知らないでしょう。
どうやって直すのかわからないものを、こわしつづけるのはもうやめてください。」

と。

 福島の海を殺すことになる、東電福島第一原発の「処理水」の海洋放出に反対します。

[資料]

解説

原子力関連施設周辺での環境トリチウムモニタリングの実際

Recent Studies on Environmental Monitoring of Tritium in the Adjacent Nuclear Facilities

柿内秀樹,赤田尚史1)

KAKIUCHI Hideki and AKATA Naofumi

公益財団法人環境科学技術研究所環境影響研究部,1)核融合科学研究所ヘリカル研究部

(原稿受付日:2013年7月29日)

原子力関連施設周辺での環境トリチウムモニタリングの実際 柿内秀樹 赤田尚史 環境科学技術研究所環境影響研究部核融合科学研究所ヘリカル研究部 2013年7月29日

トリチウムは水素の放射性同位体であり,環境中で様々な化学形で存在している.原子力関連施設周辺から環境へ放出された場合,トリチウムは大気や水の動きに従って移行するがその挙動は化学形で大きく異なる.そのためトリチウムの影響評価には化学形ごとに考える必要がある.そこでトリチウムの化学形ごとの分析法を実例とともに紹介する.

1.はじめに

地球上に生きる動植物の生命を維持する上でなくてはならないものの一つである水は,人間の体重の60~70%を占めている.水には水素の放射性同位体であるトリチウムが含まれており,このトリチウムは半減期12.3 年でβ壊変してヘリウム3になる放射性核種である.トリチウムは大気上層において,宇宙線(陽子や中性子)と大気を構成する窒素原子や酸素原子との核反応により,定常的に生成されており,その量は年間200 g 程度と見積もられている[1].大気中で生成した天然トリチウムのほとんどは速やかに酸化されて水になり,やがて対流圏に移動して雨として地表面に降下する.トリチウムは空気中の水蒸気,雨,海水や地表水などに広く存在して水と一緒に自然界を循環しているため,大昔から人は環境中のトリチウムを飲料水あるいは食物として摂取してきた.光合成を出発点とするトリチウムの有機物への変換は,トリチウムの環境サイクルの重要な部分を占め,食物連鎖を介して人へトリチウムが移行する.

天然トリチウムにより形成された定常的な状態,すなわち大気上層における生成量と地球上のトリチウムの壊変量が釣り合った状態が,1950-60年代に活発に実施された大気圏核実験により大きく乱された.図1に東京,千葉で採取された降水中トリチウム濃度の年平均の推移を示す[2,3].1952年以降は,大気中核実験によって成層圏や対流圏に放出された人工的なトリチウムのため,降水中トリチウム濃度は増加し,1963~1964年のピーク時には天然レベルの100倍を超える値が観測された.1963年の核実験禁止条約以降,日本を含め世界中の降水中のトリチウム濃度は年々減少していった.天然トリチウム存在量の200倍以上もの量が核実験で環境中に放出されたと考えられている.現在でも天然存在量の10倍程度は残っている計算になる[1].核実験由来トリチウムは,水循環に伴い最終的に海に移行するが,海には大量の水が存在するので,核実験トリチウムが海に移行しても濃度の増加はわずかである.その海の希釈効果のため現在の降水中トリチウム濃度は大気圏核実験前のほぼ定常状態のレベルにまで下がったと考えられている.一方,一時的に地下水に蓄えられたトリチウムは大気圏内核実験停止以降も,長い期間に渡って河川水や湖水のトリチウム濃度を増加させた.滞留時間がトリチウムの半減期よりきわめて長い地下水の場合,放射壊変によりトリチウムはなくなってしまうことが多い.しかし滞留時間が相対的に長くない場合、地下水には濃度レベルは低いが、今でも核実験由来トリチウムが検出できるものがある.この核実験由来トリチウムは地下水の涵養を知るためのトレーサとして利用されている.そのためには微量のトリチウム濃度を正確に測定する技術が必要となる.

トリチウムから放出されるβ線のエネルギーは弱いので被ばく線量への寄与は少ないとされている.しかし,水素は生体を構成する主要な元素であり,さらに様々な環境試料中に多様な化学形で含まれるため,トリチウムの被ばく線量を評価することは必要である.人への影響を考える場合,トリチウムは体内摂取,すなわち内部被ばくが問題となる.国際放射線防護委員会(ICRP)が提示しているトリチウムの化学形別の線量係数(Sv/Bq),すなわち単位放射能当たりの実効線量は,呼吸によりトリチウムガスを取り込む場合,トリチウム水蒸気の1/10,000となっている[4].また,有機結合型トリチウム(Organically BoundedTritium: OBT)を人が経口摂取した場合,水に比べて体内の臓器等に取り込まれやすく,一度取り込まれると体内から出にくい性質があることが知られている.その結果,体内での残留時間が長くなるため,OBTの線量係数はトリチウム水の約2.3 倍と見積もられている[4].このように,トリチウムによる被ばく線量を評価する場合は,その化学形を考慮した分析が必要となる.

環境中のトリチウムから受ける被ばく線量は,トリチウムの環境動態と密接に関わり合うため,原子力発電所や核燃料再処理施設等から環境放出されるトリチウムを含め,環境中でのトリチウムの挙動を明らかにしておくことが求められる.そのためには,様々な環境試料に含まれるトリチウムを精度よく分析する技術と挙動解析や線量評価を行なうための環境データの蓄積が必要である.環境トリチウムの測定は,核エネルギーの平和利用において放射線防護の観点からきわめて重要な問題となっている.

核融合炉システムにおいても,放射性同位元素(RI)の取り扱いは避けられない.これらのRIはシステム内に密封されている.しかし,燃料としてのトリチウムは,高温下で容易に金属壁を透過し,炉設計では通常運転時にも施設から定常的なトリチウム放出を想定している.さらに事故による環境放出も想定しなければならない.このため,核融合施設周辺環境への影響を評価するためには,放射性物質の環境モニタリングが肝要である.そこで,原子力関連施設周辺(核燃料再処理工場,核融合試験施設等)におけ

る環境モニタリング手法の実際を,環境試料の取り扱いや試料の採取法,測定時の注意点を含めて,核融合施設と関連のあるトリチウムの環境モニタリング技術を中心に解説する.

2.環境モニタリングとは

日本の原子力関連施設の安全確保は,その施設の通常操業および異常事象ないし事故による放射線障害から従事者と公衆を守ることにある.この安全操業の重要な基盤として環境放射線(能)モニタリングが重要である.環境放射線(能)モニタリングとは,放射性物質または放射線源を取り扱う施設の境界外の放射線等の測定を行うことである.環境放射線モニタリングの目的は,原子力関連施設周辺の公衆の健康と安全を守ることを基本的な目標として,環境における放射線量が公衆中の個人に対して,容認され

る線量限度を十分下回っていることを確認することにある.環境モニタリングを通じて環境における放射性物質の蓄積状況を把握することになり,それらの結果を通じて公衆への情報提供に役立てる.また原子力関連施設からの予期しない放出による周辺環境への影響(計画外放出を検出すること)の判断に資することにもなる.

一般的に原子力関連施設から放出されるトリチウムの放射能量は希ガスに次いで大きいため,環境中トリチウム濃度は環境モニタリング項目の一つとされている.このため,環境中のトリチウム濃度は,原子力関連施設近傍において環境モニタリングの一環として測定されている.大気中核実験の結果,大量のトリチウムが環境中に放出されたが,その線量寄与は最近では低くなっている.事故が起きると原子力関連施設から放射線や放射性物質が出るが,その内在する量の大きさから原子力関連施設の事故は特別であり,公衆の大きな被ばく源となることはチェルノブイリ事故や東京電力福島第一原子力発電所事故で示された.これらのそれぞれの線量寄与ならびに被ばくに関して情報を整えておくことは,公衆の放射線防護を考えるにあたりきわめて重要である.

平常時モニタリングは,対象地域の特定核種の放射能濃度の歴史的な変遷を把握・評価できる必要がある.トリチウムの場合,フォールアウトと天然由来であり,近年フォールアウトは低減し,かつ,漸減傾向にある[2,3]ものの,緯度効果や地下水の寄与の割合でその濃度に大きな差を示すことがある.したがってこのような変動が把握評価できるように,平常モニタリング計画とは別に経時変化や地域変化をかなりの長期・広範囲にわたって調査研究することも必要である.一般に原子力関連施設が平常運転されている限り,測定値の変動はある幅の中に収まる.この変動を「平常の変動幅」と呼ぶ.平常の変動幅は,測定値が正規分布とみなせる場合,標準偏差の3倍がとられる.測定値が平常の変動幅を外れている場合はその原因を調査する必要がある.ここでは通常のモニタリングに用いられる手法に加えて,更に低いレベルのトリチウム濃度の測定を必要とする環境挙動解析のための手法を紹介する.

3.トリチウムの測定法

3.1 液体シンチレーションカウンターによる測定トリチウムはエネルギーの低いβ線を放出する核種であるため,単なる放射線モニタリングでは検出できない.そこで試料を検出器の内部に入れて測定しなければならない.その代表的な方法として液体シンチレーション(Liquid Scintillation counting: LSC)法がある.このLSC法とは,放射線が作用すると光を出す物質(蛍光物質)を溶かしてある液体(液体シンチレータ)にトリチウムを含む物質を混ぜ合わせ,出てくる光を測定する手法である.トリチウ

ム測定試料は水としての形が多いため,液体シンチレータとして保水量の多い乳化シンチレータが広く用いられている.河川水,湖水,雨水,海水等の水試料の測定には,溶存している不純物を蒸留して事前に取り除いて乳化シンチレータと混合後,測定を行う.

環境試料のトリチウム測定に使用する液体シンチレーションカウンターには低自然計数率仕様であるHitachi-Aloka 社LSC-LB7,PerkinElmer 社Quantulus 1220 等が代表的なものである.検出下限値は水1 L あたり0.3~0.6 Bqであるため,原子力関連施設稼働に伴う環境影響を把握するには十分な感度を有している.しかし,自然環境におけるトリチウムの移行挙動を知るためには不十分である.さらに低いトリチウム濃度を測定する場合は,電気分解法によるトリチウム濃縮を行う必要がある.

水を電気分解すると,トリチウム水は分解されにくいので水中に濃縮される.この現象を利用したものが電解電気分解法(電解法)である.従来のトリチウム電解濃縮法であるアルカリ溶液による電解ではトリチウム濃縮とともに電解質溶液も高濃度となり,濃縮倍率を上げることが困難であった.また,電気分解で発生した酸素と水素が爆発しやすい比率で混合発生したまま装置内に存在することも問題であった.現在,これら課題を解決したものに固体高分子電解質(Solid Polymer Electrolyte, SPE)を利用したトリチウム濃縮装置がある[5].電極はSPE の両面を繊維状の金属電極で挟んだの構造であり,この電極を純水に浸して電流を流すだけで電解が進み,ガスが金属繊維のすき間から発生する.陽極で水から生成した水素イオンは固体高分子電解質中を移動して陰極に到達し,陰極で水素ガスが発生,陽極では酸素ガスが発生するので,このSPE 膜を隔てて,酸素ガスと水素ガスを分離発生させることが容易とな

り,それぞれのガスが混合して爆発する危険性が少ない.また水以外に電気分解のための試薬を使用しないので,濃縮倍率をいくらでも上げることができるという特長を有する.

水を電気分解したときの水素同位体比は次の関係式で表される.

(Vf/Vi)=(TfVf/TiViβ         (1)


Vi:濃縮前の試料水の体積

Vf:濃縮後の試料水の体積



Ti:濃縮前の試料水の3H 濃度


Tf:濃縮後の試料水の3H 濃度


  β:3H の分離係数,

3H 濃縮率


Z=Ti/Tf,            (2)


 β=(log(Vf/Vi))/(log(TfVf/TiVi)).  (3)

同一装置ならばβが一定値を取るので初期試料体積Vi,最終試料体積Vfを一定にすればTiの値に因らず,Zは一定値になる.したがってあらかじめ濃度既知の試料水を調製し,Z= Ti/Tf が一定になることを確認し,この濃縮倍率Zを装置定数として用いる.

3.2 質量分析計による測定

トリチウムは壊変によりヘリウム3を生成するため,生成したヘリウム3の原子数を測定して試料中のトリチウム濃度を決定することができる.この原理を利用し,特に地下水分析の分野で多くの成果が得られている.この方法は,密閉容器中に試料をそのまま長期間保存すれば極低濃度のトリチウム測定ができることが特徴である.質量分析法は,LSC 法にみられるような不純物による誤計数もなく,検出感度も優れた定量法である.

試料に含まれるトリチウム原子数がN0である試料を,ある一定期間(t),閉鎖系内に置いた時に壊変に伴い生じたヘリウム3がその系内に閉じ込められる.そのヘリウム3を分離精製し,ヘリウム3原子数(NHe)を希ガス質量分析計(Micromass VG-5400)で測定すれば,トリチウム原子数(N0)を(4)式によって求めることができる.


              N0=NHe(1-exp(-λt))                                (4)

          λ:トリチウム壊変定数,  t :貯蔵期間.

ただしヘリウム3測定において,空気中ヘリウムの寄与を完全に除くことはできないので,空気を測定して得られるヘリウム3とヘリウム4の比から補正を行う必要がある.

4.環境トリチウムの存在形態および試料採取法

トリチウムは他の核種にみられるような特定の試料やある部位に濃縮することはなく比較的速やかに均一分布する.しかしある放出源から大気へトリチウムが放出された場合,拡散・移行した距離や風向分布などの影響を受けて,地域内で不均一に分布することが考えられる.そのため採取方法は,採取頻度,採取量,操作性,物理的制約等を考慮して,適切と思われる装置・方法を,代表性も考慮して選択する.

トリチウムに関する環境モニタリングの目的で測定対象となる環境試料を分類するが,トリチウムは化学形ごとの線量換算係数の違いがあるため,トリチウムの化学形に留意したサンプリング計画を立てる必要がある.

4.1 水試料

トリチウムはLSC 法で測定するため,水試料は蒸留精製する必要がある.注意する点として,水試料は大気水蒸気と容易に同位体交換を起こすため,河川水,湖水,雨水,海水等の試料を採取した時は分析に供するまで気密性の高い容器に保存する必要がある.また降水試料を採取する場合,降水サンプラーを利用するが,試料採取期間に大気水蒸気との同位体交換を起こさないように流動パラフィンを添加して行う必要がある.

4.2 大気試料

大気中にはトリチウムが水蒸気(HTO),分子状水素(HT),炭化水素状(主にメタンとして存在,CH3T)の化学形で存在する.まず大気中HTO を評価するための採取法を述べる.施設関連のモニタリングのため大気濃度を測定するには,HTO は時間変動が大きくなることが考えられるため,通常2週間から1ヶ月間の連続サンプリング方式を採用し時間平均値を評価する.大気試料を採取するには真空ポンプにより大気を吸引し,大気中水蒸気をコールドトラップとモレキュラーシーブ(MS)を用いて捕集する.捕集した水蒸気を水として回収し,精製後LSC 法で測定する.試料の採取量は,LSC 法で測定するために必要な量として10 mL または50 mLの水が得られるよう流量を調節して行う.このように真空ポンプを用いて大気試料を採取する方法をアクティブ法というが,ポンプを使用せず,大気の自由拡散を利用して採取する方法をパッシブ法という.

原子力関連施設等のある地域内で大気中HTO 濃度が不均一に分布することが考えられる場合,多地点で試料を採取してHTO 濃度を分析しなければならない.その場合パッシブ法が有効である.そこで様々なパッシブサンプラーが用いてHTO が捕集されている[6‐9].図2にパッシブサンプラーの模式図を示す.透過膜で仕切った容器内に捕集剤としてMS-3A を入れている.MS-3A が入っている容器内気相は絶対湿度がゼロとみなせる.Fick の拡散則より外部の水蒸気透過速度は絶対湿度に依存し,一定割合で大気HTO を捕集できる.パッシブサンプラーは設置するにあたり電気設備のような特別なものを準備する必要がない.また簡単な構造のため,単位時間当たりの捕集量を増やすには,膜面積を大きくすることで対応できる.

大気中HTO,HT,CH3Tを化学形別に同時に分離捕集する手法として,最も一般的に採用される方法は,逐次酸化を行い,それぞれの化学形のものを水としてMS カラムに捕集するものである[10,11].まず先に述べたように大気HTO をコールドトラップとMS カラムに捕集した後,次にPt をアルミナ上に担持させた触媒カラムを100℃に加熱し,HT を酸化し水として捕集し,最後に400℃に加熱した酸化触媒でCH3T を燃焼し,後続のMS カラムに水の形で捕集する.窒素雰囲気下でそれぞれのカラムを450℃に加熱,脱着させ,脱離した水をコールドトラップにより回収する.捕集した水をそれぞれ低バックグラウンド液体シンチレーションカウンターで測定し,大気中トリチウム濃度を決定する.

4.3 有機物中トリチウム

被ばく線量評価に関連するトリチウムの環境サイクルを明らかにするためには,植物等の有機物中に存在するトリチウム濃度測定が不可欠である.有機物中に存在するトリチウムは組織自由水トリチウム(Free Water Tritium:FWT)とOBT がある.これらは図3に示すように,凍結乾燥等により組織自由水と乾燥試料に分けて分析を行う.FWT濃度を分析する際,組織自由水を回収し,過マンガン酸カリウム,過酸化ナトリウムを加えて蒸留し,その中に含まれる有機物を分解除去して精製する必要がある.分

解除去が不十分だと不純物によるケミカルミネッセンスや不純物中の炭素14(14C)による計数値の増加が起こる可能性がある.

OBT 濃度をLSC 法で測定するには,図3のように有機物を燃焼して水にする必要がある.一般的には,石英管中に試料を入れて酸素を流しながら使用する燃焼装置や金属製の圧力容器中で酸素と爆発的に燃焼させる装置が用いられている[12].これらの装置による燃焼法の難しさは,完全に試料を燃焼させ,さらに生成した水(燃焼水)をすべて回収しなければ,正確にOBT 濃度を求められないことである.また燃焼水にも有機物が含まれるために過マンガン酸カリウム,過酸化ナトリウムを加えて,蒸留精製が必要である.

質量分析法はトリチウムの壊変により生成したヘリウム3を測定するため,試料の性状よらず測定ができる.そのため,OBT 濃度を分析する時に燃焼操作をする必要がない.ここで質量分析法を用いた非交換型OBT 濃度分析を例に,図4に従って述べる.

OBT は,炭素に直接結合している非交換型OBT と交換型OBT に分けられる.交換型OBT は,有機物中の官能基に捕らえられているトリチウムである.例えば,セルロースの水酸基やカルボキシル基に固定されているトリチウムは同位体交換反応により容易にFWT と置きかわると考えられている.したがって,交換型OBT 濃度は,高いトリチウム濃度の水を植物が根や気孔を通じて取り込むと,まずFWT 濃度が上昇し,FWT 濃度の上昇に呼応して交換型OBT 濃度が高くなる.逆にFWT 濃度が下がれば,同様に交換型OBT 濃度も減少する.植物試料をトリチウムが含まれていない水(無トリチウム水)で除いて測定をすれば,非交換型OBT 濃度を求めることができる[13,14].図4に示すように,まず乾燥させた試料に無トリチウム水を添加し,同位体交換反応を利用して交換型OBT と置換する.この試料を再び乾燥し,同様の操作を計3回繰り返し,交換型OBT を除く.その試料を貯蔵容器に入れて十分な排気(10-4 Pa 以下)を行った後に,容器を封じて,-30℃の下で2ヶ月以上放置してヘリウム3を生成させる.この時,大気中ヘリウムにもヘリウム3が含まれるため,これを徹底的に除いて封入する必要があるため,アセトンを容器内に添加し,アセトン蒸気と共に容器内のヘリウムを排気する.またヘリウムは透過性がきわめて高いガスであるため,試料の貯蔵容器にはヘリウムが透過しにくい材料としてアルミノシリケイトガラス(Schott 8252 またはCorning1724)を使う必要がある.このようにして生じたヘリウム3を希ガス精製ラインに導入し,希ガス質量分析計VG-5400 で測定を行う.

表1にLSC 法と質量分析法によるOBT 濃度の検出下限値を示す.LSC 法は燃焼により水を得てLSC により測定を行い,質量分析法は乾燥試料約30 g を2ヶ月間貯蔵した後に測定した結果から評価した値である[14].比較からわかるように,低バックグラウンドのLSC によりOBT 濃度を測定した場合の検出下限は燃焼水あたり0.3 から0.6 Bq L-1である.一般環境中のトリチウムレベルが低下し,そのレベル低下に伴いOBT 濃度レベルも低下している.その結果LSC法によるOBT濃度の定量が困難になってきており,近年では環境試料中OBT 濃度に関するデータはきわめて少ないのが現状である.前述の通り,電気分解によるトリチウム濃縮をしようとすれば,より多くの燃焼水が必要となるため,燃焼水を電解濃縮してトリチウム濃度を測定することは現在行われていない.質量分析法の場合,さらに

低いOBT 濃度を有する試料については,貯蔵期間を長くするか供試料量を増やすことで測定可能となる.質量分析法で定量できるOBT 濃度レベルは沿岸域に生息する生物のOBT 濃度レベルであり,これまで分析できなかった低レベルの自然環境におけるトリチウムの移行挙動を知る上で役に立つことが期待できる[14,15].

5.原子力関連施設について

5.1 バックグラウンド

トリチウムの地域的,地球規模的な線量の寄与分の評価は,トリチウムに関する情報とモデリングによってある程度は可能である.しかしトリチウムは,自然生成や核爆発実験によるものの割合の方が多く原子力関連施設から発生するものの寄与分の評価には,これらの成分をベースラインレベルとして弁別する必要がある.現在の日本における一般環境では,ベースラインレベルに比較して,施設寄与分は極めて小さく一般には弁別が困難な状況にある.

原子力関連施設周辺のバックグラウンドを評価した例を次に示す.降水を青森県六ヶ所村に位置している(公財)環境科学技術研究所構内において1ヶ月毎に採取した.この試料を電解濃縮した後,液体シンチレータ(PerkinElmer 社ULTIMA GOLD LLT)と混ぜて測定試料とし,低バックグラウンド液体シンチレーションカウンター(Hitachi-Aloka 社LSC-LB5)で1000分間測定した.2001年から2005年にかけて,降水中トリチウム濃度は0.2 から1.2 Bq L-1 の間に分布し,その平均値は0.68 Bq L-1

を示した.図1にみられるように,青森県六ヶ所村における降水中トリチウム濃度は,同時期の千葉における値と比較して高く,緯度効果が認められた[3].内陸に存在するトリチウムが海から離れているため,トリチウムの希釈効果が起こりにくく,大陸性気団の影響を受けた降水はトリチウム濃度が高くなっていると考えられ,日本では高緯度ほどその影響を受けやすく,特に冬季にその影響が出るため,千葉より六ヶ所村で高い値をとるものと思われる.降水中トリチウム濃度と大気HTO 濃度を水として比放射能で比較したとき,それらはほぼ同じレベルであるが,わずかに大気HTO 濃度が高い傾向にあった.また大気中HTO濃度は夏に検出下限以下(<1 mBq m-3)であり,最大10 mBq m-3 まで変動が見られた.HT 濃度は5から15 mBq m-3 の間で推移した.またCH3T 濃度は1から3 mBq m-3 を示した.この濃度レベルは2000年の岐阜県や2003年から2005年にかけての熊本での報告値と同レベルであった[16,17].大気中の分子状水素(H2)濃度は約0.5 ppmv,メタン濃度は約1.7 ppmv とほぼー定である.それに対して,水蒸気濃度は大きく変動するが,そのことを考慮しても,水素原子あたりのトリチウム濃度として,それぞれの化学形の比放射能濃度を比較すると,HT>CH3T>HTO の順に高く,HT はHTO より4桁高く,CH3T は2桁程度高いレベルで存在していた[10].

5.2 原子力発電

原子力発電では主に燃料として使用される235U や239Puの三体核分裂により生成したトリチウムが使用済みの核燃料中に蓄えられている[18].また原子炉では水が減速材として使用されるが,水素には0.015% の重水素が存在しているので,重水素の中性子捕獲でトリチウムが生成する.

カナダで開発されて韓国やルーマニアに導入されているCANDU(CANadian Deuterium oxide Uranium)炉は重水(D2O)を使用しているため,軽水炉に比べると大量のトリチウムが生成し,周辺環境のトリチウムレベルが増加していることが知られている[19].カナダのCANDU 炉周辺の大気中HTO モニタリングの例としてWood らが報告しており,詳細はその報告を参照されたい[8,9].また植物中FWT 濃度およびOBT 濃度は,施設から半径10~20 kmでほぼバックグラウンドレベルまで下がっていることが確認されていた[20].その他の原子力発電でも通常運転に伴いトリチウムの放出があり,大気HTO 濃度の上昇や海水,河川水中トリチウム濃度の上昇,魚中FWT 濃度の上昇が認められている[21‐24].日本ではふげん発電所周辺で採取された大気中HTO 濃度で最大水1 L あたり20 Bq を示し,松葉中FWT 濃度が対象地域に対して,倍程度になった例が報告されている[25].この時HTO の呼吸による内部被ばくの預託実効線量は1.3×10-5 mSv year-1 と見積もられている.

5.3 核燃料再処工場

核燃料再処工場では,使用済み核燃料中に蓄えられていたトリチウムが再処理過程で液相や気相へ移行する.再処理工程で発生する気体状の放射性廃棄物の内,粒子状および揮発性の放射性物質は,大部分のものが排気浄化設備で除去されるが,排気浄化設備で除去されないトリチウムは,周辺公衆の線量が法令で定めた基準以下になるように環境中へ放出される.イギリスやフランスでは,セラフィールドやラ・アーグの核燃料再処理工場から海洋放出されたトリチウムにより広い海域で海水中トリチウム濃度

や海草,魚のFWT,OBT 濃度の増加が認められている[22,26].また,気体廃棄物として排気筒から環境へ放出されたトリチウムの一部は,施設近傍において直接沈着や雨で降下する.例えばフランスのValdacにある施設周辺では環境トリチウム濃度レベルが上昇し,その結果樹木や地衣類(lichen)のOBT 濃度が上昇していることが確認されている[27,28].日本では茨城県東海村の核燃料再処理施設周辺で大気,葉菜のモニタリング例があり,施設から半径5 km 以内にトリチウム濃度の上昇が認められている[29].

5.4 核融合実験施設

核融合実験施設の一例として,イギリスのカラム研究所にあるJET(Joint European Torus)やアメリカのプリンストン大学にあったTFTR(Tokamak Fusion Test Reactor)が挙げられる.これらの実験施設では重水素とトリチウムを用いた核融合プラズマ実験が行われた.その間,施設周辺における大気HTO 濃度をパッシブサンプラーを用いて評価を行った例[30,31]や,降水や陸水のモニタリングを行った報告がある[32].いずれも施設近傍においてバックグラウンドに対して有意に高いレベルを示していた.

6.おわりに

原子力関連施設のうち,今後最も多くトリチウムを使用するものは核融合実験施設と考えられる.これから核融合研究の進展に伴い,新たな課題に対処することも必要となってくると考えられる.例えばITER の場合,地球上に存在するトリチウムインベントリーに匹敵する量が一箇所に集中することが考えられている.そのためHT,CH3Tが土壌表層部において徴生物の作用によりHTO へ変換されることや植物が光合成によりHTO をOBT へ転換することなど,化学形が環境中で変換されることを考慮して,環境の中での実測データを基に知見を得る必要がある.

参考文献

[1]UNSCEAR, Sources and Effects of Ionizing Radiation, vol.1 (United Nations Publications, New York, 2000).

[2]http://www.kankyo-hoshano.go.jp/data.html.

[3]http://www.nirs.go.jp/db/anzendb/NetsDB.html#.

[4]ICRP, Age−dependent Doses to Members of the Public from Intake of Radionuclides : Part5 Compilation of Ingestion and Inhalation Dose Coefficients, vol. 72 (Pergamon Press, Oxford,1995).

[5]N. Momoshima et al., Fusion Sci. Technol. 48, 520 (2005).

[6]N. Akata et al., Fusion Sci. Technol. 60, 1292 (2011).

[7]T. Iida et al., Radiat. Prot. Dosim. 58, 23 (1995).

[8]M. J. Wood, Health Phys. 70, 258 (1996).

[9]M. J. Wood and W. J. G. Workman, Fusion Technol. 21, 529(1992).

[10]N. Akata et al., J. Environ. Radioact. 102, 837 (2011).

[11]T. Okai et al., J. Radioanal. Nucl. Chem. 239, 527 (1999).

[12]T. Tamari et al., Fusion Sci. Technol. 60, 1252 (2011).

[13]S. Diabate and S. Strack, Health Phys 65, 698 (1993).

[14]H. Kakiuchi et al., Fusion Sci. Technol. 60, 1256 (2011).

[15]S. Ueda et al., J. Radioanal. Nucl. Chem. 267, 29 (2005).

[16]K. Shinotsuka et al., J. Radioanal. Nucl. Chem. 258, 233(2003).

[17]N. Momoshima et al., J. Nucl. Radiochem. Sci. 8, 117 (2007).

[18]F. Luykx and G. Fraser, Radiat. Prot. Dosim. 16, 31 (1986).

[19]T. Kotzer and A. Trivedi, Radiat. Prot. Dosim. 93, 61 (2001).

[20]T. G. Kotzer and W. J. G. Workman, Measurements of Tritium(HTO, TFWT, OBT) in Environmental Samples at Varying Distances from a Nuclear Generating Station, Atomic Energy of Canada Limited Report, AECL-12029 (Chalk River Laboratories, Chalk River, Canada, 1999).

[21]J. T. Harris et al., Health Phys. 95, 203 (2008).

[22]M. Masson et al., Radioprotection 40, S621 (2005).

[23]A. Baeza et al., J. Environ. Radioact. 86, 367 (2006).

[24]A. Baeza et al., J. Environ. Radioact. 100, 209 (2009).

[25]H. Hayakawa et al., “Proc. IRPA-10, Hiroshima, P-4a-235(2000),

http://www.2000.irpa.net/irpa10/cdrom/00608.pdf.”

[26]MAFF and SEPA, Radioactivity in Food and the Environment,1997 (RIFE−3) (Ministry of Agriculture, Fisheries and Food, and Scottish Environment Protection Agency,London, 1998).

[27]O. Daillant et al., Sci. Total Environ. 323, 253 (2004).

[28]L. Vichot et al., J. Environ. Radioact. 99, 1636 (2008).

[29]H. Fujita et al., J. Nucl. Sci. Technol. 44, 1474 (2007).

[30]R. L. Otlet et al., Fusion Technol. 21, 550 (1992).

[31]B. Patel et al., Fusion Eng. Des. 47, 267 (1999).

[32]V. L. Finley, PPPL-4481, (Princeton Plasma Physics Laboratory,

Princeton, 2010).

内部被ばくを考える市民研究会 臨時例会 2021年4月11日(日)18:00~19:00 ツィキャスのみ配信

※ 毎月最終日曜日でツイキャス、会員向けZoomにて開催しています。以下、ツイキャスをご覧下さい。会員の方はZoomでも視聴できます。

本日のテーマ

『菅政権が福島第一「処理水」の海洋放出決定か?トチリウムの危険性と「処理水」の危険性について。』

  18:00~19:00 報告:川根眞也

ツイキャス http://twitcasting.tv/naibuhibakushim/show/

※ 当日はツイキャス中継のみを行います。会員の方はZoomでも視聴できます。

※ 臨時例会終了後、ネット懇親会を20:00~22:00行います。会員限定です。会員の方で希望させるかたはZoomのアカウントを作ってお待ちください。ネット懇親会のご案内を差し上げます。

http://twitcasting.tv/naibuhibakushim/show/ こちらでは、生中継の他、過去の動画を見ることも出来ます。 聞き逃した情報などもチェックしてみてください。 それでは、沢山のご参加をお待ちしています。

[記事1]漁業者ら「納得できない」 処理水の海洋放出に反発
2021年4月8日7時22分Jiji.com

 東京電力福島第1原発から出る放射性物質トリチウムを含む処理水の処分方法をめぐり、政府は海洋放出に向けた動きを本格化させた。菅義偉首相が「近日中に判断したい」と表明した7日、福島県内の漁業関係者からは風評被害の悪化を懸念する声が上がった 相馬双葉漁協の立谷寛治組合長(69)は「海洋放出になれば、消費者の多くは『良くないものを流す』と捉えてしまうのでは。国が風評対策を示していないことに納得がいかない」と憤った。 水揚げ量が事故前の2割未満に落ち込むなど、風評被害に苦しんできたが、最近は若手漁師が大幅に増えるなど復活の兆しが見えてきた矢先だった。立谷組合長は「後継者の将来を守るためにも、反対の意思に変わりはない」と語気を強めた。 相馬市の30代男性は「試験操業が終わりこれからという時なのに、また風評被害が起きるのでは」と懸念する。「上の人の判断になる。(海洋放出に)反対は反対だけど、受け止めるしかないんじゃないか」と諦めた様子で語った。 同市の漁港近くで水産物を取り扱う仲卸業の男性(48)は「お客さんからの信頼を得て取引額が増えてきた。不買運動につながったらという不安はある」と明かす。他の原発でもトリチウムの海洋放出が行われているとし、「安心安全なんですよと政府はしっかり発信してほしい」と求めた。

[記事2]福島第一の処理水、首相「いつまでも放置できない」…全漁連と会談へ2021年4月7日 6:30 読売新聞 

 東京電力福島第一原子力発電所の放射性物質を含んだ「処理水」を巡り、政府は13日に加藤官房長官を議長とする関係閣僚会議を開く方向で調整に入った。処分方法や風評対策などを議論する見通しだ。 これに先立ち、菅首相は7日にも、全国漁業協同組合連合会(全漁連)の岸宏会長らと会談する。政府は当初、昨年10月にも処理水の海洋放出を決定したい考えだったが、全漁連が反対しており、理解を得られるかが焦点になる。

 菅首相は6日夜のBS日テレの「深層NEWS」で、処理水の問題について「いつまでも放置をしていくわけにはいかないことも事実だ」と強調し、全漁連の岸会長と「しっかりお互いに意見交換する」と述べた。 福島第一原発では、壊れた原子炉施設に流入し、高濃度の放射性物質を含んだ雨や地下水を特殊な装置で浄化した後、敷地内で保管している。汚染水は1日平均約140トン発生しており、保管量は約125万トン(タンク約1000基分)に上る。来年秋にも敷地での保管が難しくなるとみられている。

 処分方法を巡っては、政府の有識者会議が昨年2月、「海洋放出」と水蒸気にして空気中に放出する「大気放出」を提示し、海洋放出を「より確実」としていた。国内外の沿岸に立地する原発が、放射性物質トリチウムを含んだ廃水を処分する方法と同じだ。だが、風評被害を懸念する漁業者が反発し、協議が続いていた。

[記事3]
原発処理水、海洋放出決定へ 13日にも関係閣僚会議 福島第1、漁業者反発必至

2021年4月9日(金)  14:05配信 時事通信

 政府は9日、東京電力福島第1原発から出る放射性物質トリチウムを含む処理水の処分方法に関し、海洋放出とする方針を固めた。
【図解】放射線量と人体への影響

 13日にも関係閣僚会議を開き、正式決定する見通し。漁業関係者らは周辺海域の水産物に対する風評被害を強く懸念しており、政府は安全面の周知をはじめとする対策に全力を挙げる考えだ。  政府は、処理水を人体に影響がないレベルまで薄めて徐々に放出する方針。しかし、風評被害への不安は強く、漁業関係者は「絶対反対」との姿勢を崩していない。  第1原発では原子炉の冷却水や地下水が建屋に流れ込み、放射性物質を含んだ水が日々発生している。政府や東電は特殊な機器で放射性物質を取り除いて海に流す方針だが、トリチウムは現在の技術では除去できない。  海洋放出に当たっては、漁業関係者の理解を得るため、風評被害対策や売り上げが減少した場合の補償が課題となる。梶山弘志経済産業相は9日午前の記者会見で「風評被害は当然起こる。対策に万全を期す」と述べている。  原発処理水をめぐっては、菅義偉首相が全国漁業協同組合連合会の岸宏会長と7日に会談。首相は、処理水を保管するタンクが増え続ければ第1原発の廃炉作業に支障が出かねないと説明した上で、海洋放出が「現実的」とする専門家委員会の提言を踏まえて処分方法を決定する意向を伝えた。その後記者団に、処分方法を「近日中に判断したい」と表明していた。

資料『トリチウムの環境動態  阪上正信 核融合研究 第54巻第5号1985年11月 解説 より』 
内部被ばくを考える市民研究会資料 2013年8月26日
http://www.radiationexposuresociety.com/archives/3434

資料『トリチウムを何万ベクレルも飲まないと健康被害はでない、とする放射能安全派の議論について』
内部被ばくを考える市民研究会資料 2019年9月25日
http://www.radiationexposuresociety.com/archives/11746

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内部被ばくを考える市民研究会

2011年3月 私たちはどんな空気を吸い、雨を浴びていたのか? 川根眞也 2016年11月26日作成

 2011年3月12日東京電力福島第一原発1号機が爆発しました。3月12日15月36分。2日後、3月14日11時01分、ウラン燃料のプルトニウムを加えたMOX燃焼の原発3号機が爆発をしました。即発臨界が起きた、と指摘されています。さらに、3月15日6時12分、核燃料の入っていなかったはずの4号機が爆発。2号機でも3月15日6時付近に爆発音が起きています。2号機はベントが出来ず、圧力抑制室(サプレッションプール)が破壊されたと推定されています。
 この3月、4月に首都東京も含めて、東京電力の原発敷地内ならば、全面マスクと完全防護服、エアラインでの酸素吸入が義務づけられるべき、空気を私たちは吸わされました。首相官邸は安定ヨウ素剤すら福島県民をはじめ東北の市民、関東の市民に配布・服用指示を出すことはありませんでした。また、首相官邸は東日本の市民に24時間換気を止めて屋内退避することも指示しませんでした。
 3月15日11:07過ぎからの官房記者会見で、枝野幸男官房長官は「10時22分時点のモニタリングの結果として、2号機と3号機の間で30mSv/h、3号機付近で400mSv/h、4号機付近で100mSv/hがそれぞれモニタリングの結果として出ております。従来の『μ』と単位が1つ違っております。従来の数値と異なりまして、身体に影響を及ぼす可能性のある数値であることは間違いありません。」とはっきり断言したにもかかわらず。

 この2011年3月、4月、私たちはどのような空気を吸っていたのでしょうか?原子力規制委員会が公表している、「定時降下物」のデータをスライドにしました。是非、みなさんの地域の空気がどんなものだったのか、確認して下さい。

 ベラルーシの甲状腺がんの診断と治療における世界的権威である、ユーリ・デミチク博士はこう断言しています。「小児甲状腺がんにはしきい値はない。チェルブイリ原発に近ければ近いほど、小児甲状腺がんの患者は多いが、一方で、どんなに少ない被ばくでも小児甲状腺がんの患者は出ている。被ばく量が最小値でさえ、小児甲状腺がんの患者が出る可能性がある」と。

 原発事故から10年。これから東日本の小児甲状腺がんの患者が増えていくことが予想されます。改めて、原発事故当時、私たちは無防備に被ばくされられたのだ、ということを確認するとともに、自分や家族のからだの健康状態の小さな変化も見逃さず、適切な対処をすることに心掛けましょう。

2011年3月 私たちはどんな空気を吸い、雨を浴びていたのか? 川根眞也 2016年11月26日作成