極めて低線量のトリチウム被ばくによるヒトリンパ球で誘導された染色体異常の、普通ではない線量―応答関係 堀雅明 中井斌

放射線医学総合研究所、遺伝研究部、千葉市穴川4-9-1 〒280、日本

1977年3月3日原稿受付

1977年10月11日改訂版受付

1977年10月28日受理

Mutation Research, 50 (1978) 101―110 © Elsevier/North-Holland Biomedical Press

原論文:UNUSUAL DOSE-RESPONSE OF CHROMOSOME ABERRATIONS INDUCED IN HUMAN LYMPHOCYTES BY VERY LOW DOSE EXPOSURES TO TRITIUM

TADA-AKI HORI and SAYAKA NAKAI

Division of Genetics, National Institute of Radiological Sciences,

9-1, 4-Anagawa, Chiba 280 (Japan)

(Received 3 May 1977)

(Revision received 11 October 1977)

(Accepted 28 October 1977)

Mutation Research, 50 (1978) 101–110

© Elsevier/North-Holland Biomedical Press

[解説]この論文は、国連科学委員会(UNSCEAR)1977年報告 ANNEX H 375 376 377 トチリウム水によるヒトリンパ球の染色体異常の誘導 にも引用された論文である。2019年に川根眞也が日本語訳したものである。しかし、なぜか、同じ堀雅明氏、中井斌氏の別の日本語論文には、トリチウム水のもっと低い線量で染色分体切断が起きている実験結果が掲載されている。こちらの方が低線量でのトリチウム水による染色分体切断の危険性が分かる実験結果が掲載されている。

堀雅明氏、中井斌氏の別の論文

論文 低レベル・トリチウムの遺伝的効果について 特に染色体異常を中心に 堀雅明 中井斌 保健物理, 11, 1~11(1976) 総説

概要(Summary)

人間の末梢血の白血球培養組織を、48時間慢性的に広い線量域にわたって、トリチウム水または[3H]チミジンのトリチウムに被ばくさせ、リンパ球の最初の細胞分裂中期の染色体の異常を調べました。そして、この実験の条件においてトリチウム水と[3H]チミジンから照射される放射線から誘発される異常は、大部分は染色分体型異常(例えば染色分体ギャップと切断)でした。細胞あたりの染色分体切断についての線量―応答関係は、トリチウム水または[3H]チミジンの両方のケースで変わった線量依存関係を示しました。高い線量域での細胞あたりの染色分体切断の産生頻度は線量に応じて直線的に増加したにもかかわらず、低い線量域での細胞あたりの染色分体切断の産生頻度は、この高線量域の直線的な線量―応答関係を低い線量への外挿により期待される産生頻度よりも明らかに多く観察されたことが分かりました。極めて低い線量域での被ばくにおいては、部分的ヒットもしくは部分的ターゲットの動力学現象が起きることが観察されました。

はじめに(Introduction)

トリチウムが環境中に存在することによる人への潜在的危険を評価することは、原子力産業がますます発展している中で非常に重要になっています。原子炉から発生するトリチウムは、素早くそして一様に生体系内に分布するトリチウム水となって、素早く生体圏に低い線量レベルで入っていきます[14]。これに加えて、トリチウム水に含まれているトリチウムは、さまざまな放射線影響を受けるもっとも敏感なターゲットであるDNAが含まれている、代謝活性のある高分子に取り込まれることが証明されました[7、20]。[3H]チミジン(チミジンはDNAの前駆体の1つ)から放出されたベータ線による遺伝的影響は、植物[13、15、19、24]と動物[3、5、6](人[1、2、16、21]を含む)について、染色体異常に関して特によく研究されています。トリチウム水からのベータ線により、染色体異常が起きることも示されました[3、11]。しかし、危険性評価のため、特に低い線量での影響評価が重要であるにもかかわらず、トリチウムによって誘発された染色体異常の線量―応答関係についてのデータがほとんどありません。

この研究は、トリチウム水および[3H]チミジンによって照射されたことで誘発される、ヒトリンパ球における染色体異常についての、広い線量範囲での定量的なデータを得るために行われました。ヒトリンパ球は、生体においても(in vivo)また試験管内の生体外の実験系(in vitro)においても、染色体異常を引き起こすことができる極めて敏感な生物指標であり、また、ヒトにおける染色体異常の研究の唯一実行可能なテスト・システムでもあります。ヒト末梢血の白血球培養組織は48時間、トリチウム水と[3H]チミジンに慢性的に被ばくさせられました。そして、最初の細胞分裂中期にヒトリンパ球染色体の異常が調べられました。

実験対象と方法(Materials and methods)

培養方法(Culture methods)

この研究で記述されるすべての実験では、我々は、1人の健康な成人男性の提供者から採取された人間のリンパ球の培養組織を使いました。静脈血は無菌ヘパリンで凝血防止された注射器に採血され、その後、白血球を含んでいる血しょう分画が集められました。白血球培養は、ファルコン・プラスチック培養試験管(16×125mm)の中で、血しょう分画(0.5mL)を加え、MEMイーグル(ギブコ; 4.5mL)の培養基に入れました。胎児の子牛血清(ギブコ; 10%)、フィトヘムアグルチニン(PHA-M.ディフコ; 2%)、そして、抗生物質を追加しました。

トリチウム水と[3H]チミジンによる照射(Irradiation with tritiated water and [3H]thymidine)

 培養を始めると同時に、トリチウム水(放射化学センター、英国)と[3H]チミジン(ニューイングランド原子力機関、米国:比放射能2Ci/m mole)が培養組織に加えられました。そして、すべての培養組織はリンパ球がトリチウムに慢性的に被ばくするように48時間、37℃で培養されました。培養組織のトリチウムの濃度は、液体シンチレーションカウンター(ベックマンLS230)で、培養基とトリチウム水と[3H]チミジンの最初の貯蔵液を放射能分析することによって決定されました。トリチウム水の濃度は、10-3 μCi/mLから102μCi/mLまでの範囲のものを使いました。これは1.2×10-2mRラド/h~1.2ラド/hの線量率を生じると計算されました。[3H]チミジンの濃度は、10-3(1.2×10-4μg/mL)から10μCi/mL(1.2pg/mL)の範囲でした。

染色体異常の染色体準備とスコアリング(Chromosome preparation and scoring of chromosome aberrations)

培養開始から43時間後で、コルセミド(10-6M)が培養組織に加えられました、そして、5時間後に、培養細胞は収集されました。

(編集者注)コルセミドとは

細胞分裂の際には紡錘糸というものが形成されて、この紡錘糸が染色体の中心部で染色分体と染色分体とをつないでいる動原体に結びつき、紡錘糸が動原体を両極に引っ張ることで細胞分裂が行われます。コルセミドはこの紡錘糸の形成を阻害します。このことにより、細胞分裂を細胞分裂中期(M期)で停止されることから染色体のようすを観察することができます。

培養基の放射性物質を洗い流した後に、細胞は低浸透圧溶液で処理されました(0.5%のクエン酸ナトリウム、0.1%のKC1、0.2%のNaC1、そして、0.1%のブドウ糖)。その後、氷酢酸とエタノール(1:3、v/v)の混合物で固定されます。冷やされた湿式スライドガラスに細胞分裂停止液を2、3滴滴下し、染色体は引火乾燥法で広げられました。空気乾燥の後、スライドはゼーレンゾンリン酸塩緩衝液(pH 6.8)で希釈した、3%のギムザ液で染色されました。細胞分裂中期の形状は丸い視野の範囲で低拡大倍率(100×)の下で選び観察しました。そして、46の動原体を含んでいる細胞分裂中期の形状だけは油浸オイル法(1000×)の下で調べられました。染色体型異常は、二動原体染色体と環状染色体と分類されました。この研究では、二動原体染色体と環状染色体のいずれかしか観察されなかったため、無動原体断片は観察されませんでした。染色分体型異常は、染色分体ギャップ、染色分体欠失と染色分体交換とに分類されました。同腕染色分体型異常も同様に、同腕染色分体ギャップと同腕染色分体欠失とに分類されました。染色分体欠失は、染色分体断片の置き換えが起きているギャップと区別されました。

この研究において、細胞あたりの切断数が、染色体異常の指標として使われました。細胞あたりの切断数を計算すると、二動原体染色体、環状染色体と染色分体交換はこの実験ではごくまれに観察されませんでしたが、2種類の切断数として分類しました。一方、染色分体ギャップと染色分体欠失は、もっとも観察された主要な異常でしたが、我々はこれらを1つの切断数に分類しました。同腕染色分体異常もその発生起源が明らかではないので、1つの切断数に分類して数えました。

DNA合成および有糸分裂指標のオートラジオグラフィ分析(Autoradiographic analysis of DNA synthesis and mitotic indices)

白血球培養組織は、PHA刺激の時に加えられた[3H]チミジン(0.5μCi/mL)によって、48時間継続的に標識されました。

(編集者注)PHAとは

 かつてリンパ球は小さな円形状の核と幅が狭い細胞質をもち、細胞小器官にも乏しい特徴が少ない細胞であるところから、分裂も分化もしない成熟しきった細胞であると考えられていました。

1960年Nowellらは、末梢リンパ球を五月ささげより抽出されたPHA(phytohemagglutinin)と共に数日間培養すると、リンパ球は大型化し、かつ幼若化し、多数の分裂像が観察されることを明らかにしました。PHAを加えたリンパ球培養が染色体分析に極めて有用であることを報告しました。

このようにPHAはリンパ球を幼若化する働きを持っています。(河野均也 リンパ球培養の臨床的応用 第185回順天堂医学会学術集会 1973年5月17日)

さまざまな細胞周期ごとに細胞は集められて、氷酢酸とエタノール(1:3、v/v)の混合物で固定され、オートラジオグラフィで分析されました。スライド標本は、1:1に希釈された写真乳剤(NR-M2、サクラ)に浸されました。空気乾燥の後、スライドは3~5日の間暴露されました。

スライドは5分間コレクト―ル(富士)現像剤で現像され、20℃で15分の間フィクサー(富士)定着剤で固定され、それから、3%のギムザ液で染色されました。DNA合成の標識指標と分裂指数は、総数5000以上の単核細胞から決定されました。

結果(Results)

この研究において、白血球培養組織は48時間トリチウム水もしくは[3H]チミジンに慢性的にさらされました。そして、リンパ球染色体の異常は、分裂停止剤コルセミドで5時間の処理の間に蓄積された細胞分裂中期の像から調べられました。人間のリンパ球の培養は試験管内(in vitro)で多くの要因に依存している複雑なシステムであるので、適切な解釈のためには実験的な状態における細胞分裂周期パターンを知っていることが重要です。DNA合成が完了した結果とMEMイーグル培地の中でPHA刺激により開始された培養組織の分裂指数は、図1に示されます。

DNA合成の初期は、培養開始24時間後という早い時期に見つかりました。DNA(標識化された指標)を合成している細胞の頻度は、連続的に増加して、48時間で20%まで達しました。

最初の有糸分裂は培養開始およそ40時間後に起こり、有糸分裂の指標は48―50時間後に最大の0.25%になりました。

若干の細胞が有糸分裂段階に入ったとき、他の細胞はまだS期でDNAを合成していました。

これらの結果は、PHA刺激後のリンパ球が非同期的に細胞周期を行うことを暗示しています。

細胞が48時間継続的に[3H]チミジンに標識され、細胞中期の染色体のオートラジオグラムが準備されたとき、両方の姉妹染色分体の分布密度と同じ密度で銀粒子があるとわかりました。

表1 トリチウム水および[3H]チミジンによって誘発されたヒトリンパ球の染色体異常の種類と頻度

縦の欄 処理方法 対照群 トリチウム水 [3H]チミジン

横の欄 被ばく線量(μCi/mL) 実験細胞の数 異常細胞の割合 染色分体異常のタイプ(染色分体ギャップ 染色分体切断 同腕染色分体ギャップ 同腕染色分体切断 染色分体交換) 染色体異常のタイプ(二動原体 環状) 細胞あたりの染色分体切断の割合(±標準偏差)

脚注a 標準偏差は、ポアソン分布に従うと仮定して計算されました

図1

PHA刺激を受けた後、DNA合成している細胞の頻度(標識化された細胞の割合)と有糸核分裂細胞の頻度(有糸分裂した細胞の割合)。3種類の培養組織は培養開始から継続的に[3H]チミジン(0.5μCi/mL)で標識されました。そして、その時刻ごとに細胞はオートラジオグラフィのために固定されました。

横軸 時間(時)

縦軸 左 標識化された細胞の割合(%) 右 有糸分裂した細胞の割合(%)

有糸分裂がDNA合成と同期していないにもかかわらず、細胞中期の染色体の異常があるかないかすべてをオートラジオグラフィで確認することが実験後の最初に行われました。この結果は5-ブロモデオキシウリジン(BUdR)―ギムザ法に基づいて行った我々の未公表データと一致しており、この実験と同様な条件下で行った2回目の有糸分裂の頻度についてはほとんど無視できる結果となりました。

 トリチウム水と[3H]チミジンによって誘発される染色体異常の種類と頻度に関するデータをまとめたものが表1です。与えられた線量ごとの異常数は、少なくとも2種類の実験から得られ、また、その数はそれほど異なるものではありませんでしたが、それぞれの線量ごとに計数されました。トリチウムによって誘発される染色体異常の種類は、大部分は染色分体型異常、例えば染色分体ギャップおよび染色分体切断、でした。トリチウム水と[3H]チミジンによって誘発される染色体異常のタイプは、そのほとんどが類似していましたが、染色体型異常に関してはトリチウム水で標識された細胞でより多く観察されました。[3H]チミジンによって誘発される染色体異常は、もっぱら染色分体型でした。これはS期のDNA複製の間に[3H]チミジンが染色体DNAに取り込まれるという事実から、染色体の複製が行われる後にだけ[3H]チミジンの影響を受けることが期待されます。一方、トリチウム水で標識された細胞では、染色体型異常の少ないけれども明からな増加が観察されました。細胞分裂の時期に関係なく、トリチウム水のトリチウムは細胞の中に素早く、そして一様に入っていくので、G0期あるいはG1期に細胞の染色体DNAと接触したトリチウムにより、染色体型異常が誘導されるかもしれません。これらのトリチウムで標識されたヌクレオシドが、RNA合成とタンパク質合成が活発に行われているG1期で細胞に取り込まれたとき、[3H]ウリジンおよび[3H]ロイシンもまた、染色体型異常も引き起こすことが、我々の予備研究の結果で実際に示されています[8]。

<編集者注>チミジンはDNAの前駆体であるのに対して、ウリジンはRNAの前駆体、ロイシンはタンパク質の前駆体です。

細胞あたりの染色分体切断の割合を計算したものが、実験対象と方法(Materials and methods)表1の最後の欄に記載されています。トリチウム(μCi/mL)の被ばく線量と細胞あたりの染色分体切断数(対照群の同切断数を差し引いています)との関係は図2に示されています。線量に対する切断数は対数目盛で示されています。[3H]チミジンは、トリチウム化水よりおよそ100倍染色体異常を生じる効果的があるように見えます。被ばく線量は細胞培養の際のトリチウム濃度を意味するので、[3H]チミジンの一見の高い線量効果はトリチウムが染色体DNAに取り込まれることによる非常に局所的なベータ線照射によって引き起こされた、と解釈することができます。

 その線量―応答関係は両方のケースで変わった曲線を描きました。これは注目に値します。染色体異常が生まれる率はトリチウム水の場合は5μCi/mL以下で、[3H]チミジンの場合は5×10-2μCi/mL以下でそれぞれより少なくなっています。我々はこの2つの曲線について、べき乗数則(the power low model)Y = k D nに基づいて、最小二乗法回帰分析を行いました。Yが細胞あたりの染色分体切断数であり、DはμCi/mLで表された被ばく線量、kとnは定数です。

図2 トリチウムによる被ばく線量(μCi/mL)と細胞あたりの染色分体切断数との関係(対照群の切断数を差し引いてある)白い丸がトリチウム水を示し、黒丸が[3H]チミジンを示します。べき乗則に基づき実線を引いてあります。

縦軸 処理方法 トリチウム水 [3H]チミジン

横軸 被ばく線量の範囲(μCi/mL) 定数k 定数n 適合度(x d.f. P)

対数変換すると、この関係は直線、log Y =log k+ n log D となります。表2で示すように、べき乗数則は、データに極めて良く適合しています。統計分析のこれらの結果から、我々は、48時間のトリチウムへの慢性暴露によって誘発される染色体異常の線量―応答関係は、2つの要素を持っているととりあえず結論しました。高い線量での線量―応答関係では、線量D のべき指数nは、トリチウム水では0.953と[3H]チミジンでは0.790と1.0から大きく外れず、線量に対する細胞あたりの切断数が線量に直線的に依存することを示しています。P値については、トリチウム水では0.1>P> 0.05、[3H]チミジンでは0.3>P> 0.2でした。しかし、低い線量の範囲では、線量D のべき指数nがトリチウム水では0.380、[3H]チミジン0.338であり1.0からかなり逸脱して、明らかに線形動力学に当てはまりません。このときP値はP < 0.001でした。したがって、部分的ヒットまたは部分的ターゲットによって引き起こされることが明らかになりました。トリチウム水と[3H]チミジンにいずれにおいても、細胞の染色分体切断の数は、いずれの線量においてもポアソン分布を示しました。ただし[3H]チミジンの50μCi/mLおよび10μCi/mLの2つのケースは例外です。ここでは選択的な細胞死が恐らく起こるかもしれません。したがって、極めて低い線量の範囲で示された変わった線量依存関係は、染色体異常の偏った記録とする根拠にはならないかもしれません。

それに加え、今回の実験条件では分裂遅延がなかったことから、非常に低い線量において見られた、線量―応答の曲線関係は、細胞周期の感受性の高さや高い線量域でカイネテックスにより引き起こされた分裂遅延の影響[3]が原因とは考えられません。

討論(discussion)

放射線への暴露によって人間のリンパ球で染色体異常が誘発されることは、現在確立された学説です。しかし、大部分はX線とガンマ線による影響研究にあてられ、内部放射線の影響についての研究は比較的少ないです。1958年以降、何人かの研究者によって、トリチウムが、特に[3H]チミジンの形で、植物[13、15、19、24]と動物[3、5、6]で染色体異常を引き起こすことが示されました。[3H]チミジンの瞬間的な暴露によって人間のリンパ球に染色体異常が誘導される2つの研究報告がすでにありました[2、21]。これらは、[3H]チミジンの一回の投与だけで行われたむしろ定性的な研究結果です。我々が行った実験条件では、トリチウム水と[3H]チミジンへの慢性暴露によって誘導される人間のリンパ球の染色体異常の種類は、大部分は染色分体型異常のタイプでした。この結果は、上記の他の研究報告と一致しています。線量に対してプロットされた細胞あたりの染色分体切断を対数―対数目盛りでグラフ化すると、線量―応答関係は2つの構成要素をもつ変わったカーブを描きました。この2つの構成要素の統計学的分析をすると、トリチウム水と[3H]チミジンの両方の実験から得られるデータはべき乗数則(the power low model)がもっともフィットすることが分かります。高い線量範囲では、線量D のべき指数nの推定値は、1.0からは外れません。これは、染色分体切断が直線的な線量依存性をもつことを示しています。染色分体異常の直線的な線量依存性は、すでにチャイニーズハムスター細胞で示されています。[3H]チミジンの3×10-2~20μCi/mLの線量範囲によって誘発される染色分体異常は線形カイネティクスに従いますが、ところが、トリチウム水の240―5780μCi/mLの線量範囲、および60Coガンマ線の140—865radの線量範囲では、純粋に線量の二乗に比例(それぞれ線量の1.8乗と1.9乗)であったと、デューイら[5]は報告しました。ブリューエン(Brewen)とオリベイリ(Olivieli)もまた[3H]チミジンの0.625―5.0μCi/mLの線量範囲で、さまざまな染色分体異常で直線的な線量―応答関係を見つけています。細胞のタイプが違い、また、トリチウムへの被ばく状況が違うため、これらのデータと我々の実験結果とを直接比較することはできません。彼らが使った線量範囲が考慮に入れられるならば、それでも、[3H]チミジンによって誘発された染色分体異常の線量―応答関係は基本的に線形動力学に従うようだと、通常、述べることができます。我々が観察したトリチウム水が直線的な線量依存関係を示したのとは異なり、チャイニーズハムスター細胞の結果では、20~40%の染色体交換のタイプを含む染色分体異常数が線量Dの1.8乗で増加しています[5]。この違いの1つのあり得る説明は、使われる線量範囲の違いによると推測することができます。チャイニーズハムスター細胞の研究において使われた線量範囲は、この研究の0.58mrad ― 57.6radより高く、23―554radでした。X線とガンマ線によって誘発される染色体異常の染色体交換タイプの線量―応答関係のデータは、通常、よく直線2次曲線モデルになります[10、12、23]。

低い線量域では線量Dの2次項が減少しているのに違いないので、低い線量域では線形動力学に基づくのは予想外でありません。このことにより、トリチウムのベータ線照射による慢性被ばくの性質を、低線量率被ばくと名付けることができます。我々はまさしく低線量域での細胞あたりの染色分体切断数において、変わった線量―応答関係を観察しました。トリチウム水と[3H]チミジンへの低い線量域での暴露により、高い線量域で見られる直線的な線量―応答関係を低い線量域に延長することによって期待される異常数より多い異常数が生じました。べき乗則モデルから推定される線量Dのべき指数は、部分的なヒットもしくは部分的な目標を示す直線的な動力学からかなり外れています。この研究では極めて低い線量域でなぜ線形の線量―応答関係から逸脱するのか、その原因についてはいかなる説明も許されません。しかし、高い線量域のデータから推測される線量―応答関係からの同じような逸脱が、他の研究においても、染色体異常に関する研究[4、10、12、17、18]だけでなく、微小核形成[9]や、突然変異と発癌の生成に関するもの[22]からも、得ることができると言えるかもしれません。したがって、さまざまなタイプの遺伝子損傷を引き起こす上では、直線的な線量―応答関係から想定されるより、極めて低線量の照射の方がより効果的であるのではないか、と仮定することができます。極めて低い線量域における効果を説明するメカニズムは、さまざまな研究から推定される部分的ターゲット動力学ですが、この研究において分かった変わった線量―応答関係に基礎をおいたメカニズムは、放射線が染色体DNAに一時的損傷を与えた後、誘導されたDNAのエラーをチェックするメカニズムが働くまでの間の、臨界点における相互作用の結果であると説明することができるかもしれません。極めて低い線量域における放射線の効果について、その性質を明らかにするには更なる広範な研究が必要です。放射線に敏感であるか、修復のメカニズムが欠損している、遺伝子異常のさまざまな種類の細胞の活用は、基本的な問題の解決のヒントを提供します。実際的な見解から、我々と他によって行う実際の試験から得られる結果が強く示唆しているのは、特に非常に低い線量域で突然変異誘発性薬品の遺伝子リスクを評価することが必要だ、ということです。

謝辞(Acknowledgments)

K.ミゾブチ博士とM.ヒライ氏からいくつかの刺激的な議論をしていただき、またJ.モリヤ氏には技術協力をしていただいたことに感謝します。Y. カシダ博士にはトリチウム水取扱いについての役に立つアドバイスをいただきましたことに感謝します。

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