2020年8月31日、福島県県民健康調査検討委員会が開かれ、福島の子どもたちの甲状腺がんについて報告されました。先行検査、本格検査2~4回目、25歳時検査で見つかったのは、実に245人の甲状腺がん。
(1)しかし報道するのは、地元紙、福島民報、福島民友だけです。朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、日本経済新聞はガン無視しました。4紙はかつては2cm×3cmくらいのベタ記事で載せたこともありました。または、全国版では載せず、福島版でだけ記事を載せたこともありました。しかし、朝日毎日読売日経は翌日9月1日朝刊に、この245人の子どもたちの甲状腺がんの記事を書きませんでした。東京新聞も今回は記事を書きませんでした。
(2) 福島県は意図的に、検査対象から20歳以降を特別枠にして、2年置きの検査を5年置きにしました。2016年からの検査3回目から、それまで2年置きに行っていた甲状腺超音波検査を、20歳以降は25歳、30歳の5年置きにしたのです。
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実は先行検査(原発事故のあった年2011年度~2013年度)の検査で、もっとも甲状腺がんを発症したのは、原発事故当時14.9歳の子どもたち。ちょうど中学3年生の世代で2011年3月16日は県公立高校の合格発表でした。3月15日、3月16日と言えば福島市でももっとも放射能ブルームが高かった時です。高校の合格発表を見に行き、合格手続きをした中学3年生の子どもたちは、1日屋外にいました。原発事故が起きたのだから今日は家にいてと両親から言われた子どももいます。今日の合格発表は危険だから延期してほしい、と校長に頼んだ高校教師もいます。しかし、避難指示の出ていた、双葉町、大熊町などの原発20km圏内以外は、2011年3月16日に県公立高校合格発表は強行されました。その日は福島市など雨も降っていました。中学3年生たちはその雨を浴び、放射能の空気を吸いました。その後も中学生、高校生は部活動をやっていました。郡山市は合唱がさかんで合唱部の部活動では校舎の外で2011年4月5月も合唱練習をするところがあった、といいます。この中学3年生と中学高校生の部活動をやっていた世代が、ヨウ素131をはじめとする放射能をもっとも多く吸っていたと考えられます。
以下は、東京新聞2019年1月21日の記事ですが、福島県中通りに住む女性が大学生の時に甲状腺がんが見つかった、と言います。原発事故当時、中学3年生、原発事故直後だったので両親は「家にいて」と言いましたが、進学する高校の手続きで外に出て、雨にも濡れたと言います。
「一〇〇ミリシーベルトの少女」が福島県双葉町にいたとされる事故発生時、同県中通り地方で暮らす中学三年生だった女性。大学進学後、甲状腺がんが見つかった。二十代の今、「私の家系で甲状腺がんになった人はいない。被ばく以外に原因が考えられない」と憤る。甲状腺は新陳代謝に関わるホルモンを分泌する器官。事故で放出された放射性ヨウ素は呼吸などで体に入ると甲状腺に集まり、がんの原因となる内部被ばくをもたらす。一九八六年のチェルノブイリ原発事故で、特に子どもの甲状腺がんが多発した原因とされる。がんの検査を行う県の資料にも、同事故で「一〇〇ミリシーベルト以上でがん発症」とある。二〇一一年三月、原発が次々と爆発し、大量の放射性物質が放出された。両親は「家の中にいて」と娘の身を案じた。それでも、進学する高校の手続きなどで外に出て、雨にも濡(ぬ)れた。四年後、大学生の時に福島県の超音波検査を受けた。その後、県立医科大に呼ばれ、詳しい検査の後、「甲状腺がんです」と宣告を受けた。「私は覚悟してたけど、母の泣きそうな顔を見るとつらかった」医大の患者対応に信頼が持てず、手術は別の病院で受けた。転移はなく、今は東京都内の会社で働く。時々、再発しないか不安になる。そしてもう一つ、消えない思いがある。「事故のせいでは」国、県はその思いを認めない。被災した人たちはそれほど被ばくしていないから、関連性は「考えにくい」という理屈だ。

そのもっとも甲状腺がんのリスクが高い世代が、20歳になろうとしている時に、2016年の本格検査3回目から福島県は、検査間隔を2年から5年に伸ばしたのです。原発事故から5年経ち、14.9歳の世代が20歳になる時にわざと検査の機会を減らしたと考えることができます。

東京オリンピックが2020年に予定されていました。その時に原発事故で小児甲状腺がんが多発していたら、問題だからでしょう。東京オリンピックのために、新型コロナの感染者数を低く見せるためPCR検査を抑制もしました。検査数を減らせば、小児甲状腺がん患者数も新型コロナの感染者数も低くなります。見かけ上は。
(3)245人の甲状腺がんは対象者は約38万人。原発事故0~18歳だった子どもたち、および原発事故後に生まれた子どもたち、です。原発事故から9年。245÷9=28人/年。
10万人あたりの罹患率にすると、対象者が38万人だから28÷38000×10000=7.3人/10万人あたり・年間。異常な発症率です。チェルノブイリ原発事故でもっとも放射能が降ったと言われるベラルーシの小児甲状腺がんの発症割合に匹敵する患者数です。 人/10万あたり・年間でのグラフが以下です。 ゴメリ州で原発事故5年目の1991年に11人。ブレスト州で原発事故7年目の1993年で7人です。福島県では、この7人の状況が9年間続いていることに匹敵します。
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福島県県民健康調査検討委員会は、チェルノブイリ原発事故の小児甲状腺がんの、10万人あたりの罹患率と比べることをしません。国連科学委員会の福島県民の被ばく線量の推計(あくまでも推計)と罹患率を比べるばかりです。この7.3人/10万人も低めの数値です。何故ならば、20歳以降は5年置きの検査とされていて38万人全員が検査を受けていないからです。5年置きの検査、25歳時検診の受診率はたった8.4%です。25歳時検診の対象者が6万6000人いるのに5500人しか検査を受けていません。高校大学生などを出て社会人になったこともあるでしょうが、検査を受けることのメリット・デメリット論が相当影響していると考えられます。「甲状腺がんは予後がいいがん」「本来、放置していてもいいがんをわざわざ見つけてがん患者にしてしまう」「若くしてがん患者のレッテルを貼っていいのか」などが、SYNODOS、朝日新聞論座などで繰り返し繰り返し流されています。県民健康調査検討委員会と甲状腺評価部会の高野徹氏などが論じています。この25歳時検診6万6000人対象のうち、5500人しか受けていないのですが、すでに7人の甲状腺がんが見つかっています。もし8.4%ではなく、全員が検査を受けたら、どうなるのでしょうか?
7÷5500×66000=84人なんと84人の甲状腺がん患者が見つかることになります。高野徹氏のメリット・デメリット論や、福島県の2年置きの検査を5年置きにする作戦が、本来、84人の甲状腺がん→7人の甲状腺がんにした、と言えます。朝日、毎日、読売、日経は245人の甲状腺がんの発症もガン無視ですが、福島民報、福島民友も、2020年9月1日の記事では、25歳時検診の問題には触れていません。8.4%の異常な検診率の低さについても触れていません。もし、25歳全員が検査を受けたら84人の患者が出るかもしれないことも書いていません。
(4)2020年6月15日に甲状腺評価部会が開かれ、本格検査3回目(2016年度、2017年度)の検査結果の確定版が出されました。先日9月9日にその評価部会の議事録が公表されました。ここでも議論の中心は、国連科学委員会の被ばく線量と甲状腺がんの発症の関係ばかりです。なぜ原発事故当時、中学高校の世代の発症が多いのか、の分析は一切ありません。世代や行動分析を具体的にしていないのです。地域と甲状腺がんの発症率との関係のみ。結論として、被ばくと甲状腺がんとは関係がない、としています。この結論を引き出すために、国連科学委員会の被ばく線量評価を持ち出してきたのにすぎない、と思われます。だいたい、実測値はなく、すべて推計に過ぎません。あの2011年3月16日に、中学1年生でずっと家にいた子どもと、中学3年生で高校の合格発表でずっと外にいた子どもの被ばく線量は、同じ家に生まれた兄弟姉妹でもまったく違うでしょう。地域的な被ばく線量では、この2人の子どもの被ばく線量は足して2で割ることになります。つまり、過小評価になります。地域の被ばく線量の推計を個人にあてはめてはダメです。地域の被ばく線量の推計を個人にあてはめてるのは、過小評価したいからだ、と考えるべきです。
(5)6月15日の甲状腺評価部会で発表された、本格検査3回目の確定版には、驚くべき数字がありました。1次検査を終えて、甲状腺に5.1mm以上の結節などがあり「2次検査が必要ですよ」と通知された人が、25%もいました。4人に1人が2次検査を受けていないのです。本格検査3回目は2016年度、2017年度であり、すでにまる2年は経過しています。
つまり、がんに例えるなら「肺にちょっと影がありますね。精密検査を受けた方がいいですよ」と言われた100人のうち、25%、25人が精密検査を受けていない、ことに相当します。しかも、福島県民健康調査の1次検査も2次検査も無料です。この本格検査3回目で見つかった、甲状腺がんの患者は31人です。もし、2次検査未受診者が全員受けたら、どうなるでしょうか?31÷75×100=41人の甲状腺がんの患者になります。
本来、41人の甲状腺がん患者であるはずが、31人の甲状腺がん患者として公表されていることになります。6月15日の甲状腺評価部会では、この2次検査の未受診者25%については一切、議論されていません。
(6)20歳以降の世代、原発事故当時中学高校の世代の甲状腺がんの発症が心配です。原発事故由来の小児甲状腺がんは、悪性で転移が早く、肺に転移した場合に、今回が血を吐いて亡くなった例も報告されています。チェルノブイリ原発事故の際のベラルーシでの経験です。福島県立医大や県民健康調査検討委員会は、ベラルーシの内分泌専門で原発事故後の小児甲状腺がんに取り組んできた、ユーリ・デミチック博士を日本に呼び、何度もこの話を聞いています。それなのに、この原発事故当時、外に出て被ばくしていた可能性の高い中学高校の世代の検査を5年置きにして、また、メリット・デメリット論で検査を受けることが不利のように宣伝しています。原発事故による風評被害の払拭と、子ども・青年の命のどちらが大事なのでしょうか?
福島民報、福島民友の記者の方々。是非、本当の分析を記事にして欲しいです。20歳以降の世代、原発事故当時中学高校の世代の甲状腺がんの発症が心配です。

[写真1]2020年9月1日 福島民友新聞 2面
