福島第一原発事故後の甲状腺がん 原発事故当時高校の世代で甲状腺がんが多発しているのではないか?25歳時の節目検査をやめ、20歳以上は毎年の甲状腺検査をやるべき(その2)
2020年6月13日
内部被ばくを考える市民研究会 川根 眞也
(2)髙野徹氏ら、福島県県民健康調査検討委員会の甲状腺評価部会は、2019年7月甲状腺検査本格検査(検査2回目)結果に対する部会まとめ(案)を公表しました。本来であれば、甲状腺評価部会において討議・合意の上、公表されるべきですが、2019年7月8日第35回県民健康調査検討委員会で異論があいつぎ、座長預かりとなりました。
その異論のもっとも大きなものは、UNSCEAR(国連科学委員会)が推計した住民の被ばく線量(甲状腺吸収線量)を基に、福島県を3つの地域に分け、被ばく線量が違うのに3つの地域での甲状腺ガンの発症率がほとんど変わらない、としたことです。従って、甲状腺ガンは福島第一原発事故による放射線の影響ではない、という点でした。
臨床心理士の成井香苗氏は、1巡目の報告書で採用していた4区分で解析したところ、線量の高いとみられる避難区域、中通り、浜通り、会津の順に甲状腺がんが多かったとしたことを指摘しました。部会で研究デザインが大幅に変更されたのは理解できないと強く反発しました。福島県内を回って心理職をしている立場として地域4区分は妥当な区分だと実感しているとして、線量が不確かなのは、UNSCEARの推計も変わらないと反論。「なぜ4地区で解析できないのか」と迫りました。(甲状腺がん報告書を一部修正へ〜「被曝と関係認められない」見直し our planet tv 2019年7月5日)
結局、十分な議論がされないまま、福島県のホームページ上で、2019年7月甲状腺検査本格検査(検査2回目)結果に対する部会まとめが公表されました。その結論は、本格検査2回目では、甲状腺ガンの発症率に地域差が見られず、原発事故との因果関係は考えにくい、というものでした。
| 甲状腺検査本格検査(検査2回目)結果に対する 部会まとめ 一部抜粋 2019年6月(7月に公表された) 所見 一次検査の結果での精密検査が必要となるB判定の割合や悪性ないし悪性疑いの発見率は、事故当時の年齢、二次検査時点の年齢が高い年齢層ほど高かった。これは、チェルノブイリ事故後に低い年齢層により甲状腺がんが多く発見されたものと異なっている。年齢の上昇に伴いがんが見つかることは、一般的ながんの発症と同様である。 男女比がほぼ1対1となっており、臨床的に発見される傾向(1対 6程度)と異なる。潜在癌で見つかる場合や、年齢が低いほど男女比が小さくなる傾向などの報告もあるが、男女比と被ばくとの関係についての評価は今後の課題として残されている。 悪性ないし悪性疑いの発見率を単純に4地域で比較した場合にした場合においては、差があるようにみえるが、それには検査実施年度、先行検査からの検査間隔など多くの要因が影響しており、それらの要因を考慮した解析を行う必要がある。 発見率に影響を与える要因を可能な限り調整し、暫定的に年齢別・市町村別UNSCEAR推計甲状腺吸収線量を用いて行った線量と甲状腺がん発見率との関連との解析においては、線量の増加に応じて発見率が上昇するといった一貫した関係(線量・効果関係)は認められない。 よって、現時点において、甲状腺検査本格検査(検査2回目)に発見された甲状腺がん回目)に発見された甲状腺がんと放射線被ばくの間と放射線被ばくの間の関連は認められない。 |
(3)国連科学委員会(UNSCEAR)の甲状腺吸収線量は内部被ばくを過小評価している
海野信也氏(北里大学医学部)らは、2012年福島第一原発から100km、200km離れて生活していた母親23人の母乳から2.2~最大8ベクレル/kgのヨウ素131が検出されていたことを報告しています。
2011年4月25日 茨城県水戸市(原発から南130km)の母親の母乳ヨウ素131 8ベクレル/kg。
当時の茨城県水戸市の水道水3月26日ヨウ素131 1.4(4月22日),1.2(4月25日), ND(5月9日)ベクレル/kg。
<参考>海野信也ほか Effect of the Fukushima nuclear power plant accident on radioiodine (131I) content in human breast milk The Journal of Obstetrics Gynaecol Research 2012 May;38(5):772-9.
この論文に基づき、放射線医学総合研究所は海野氏の論文のデータと急性摂取モデルによりによる母親と幼児の等価線量を推定しました。
<参考>福島事故後の母乳測定データの解析 放射線医学総合研究所 第6回東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議 2014年5月20日
福島第一原発より45km南のいわき市を含む福島県や220km南西の茨城県や千葉県の母親の推定線量は119ミリシーベルトから432ミリシーベルトと評価されました。その母親の乳児の推定線量は330ミリシーベルトから1199ミリシーベルトと評価されます。

母乳のヨウ素131
10-1 水戸市(130km,南)
8.0Bq/Kg (4/25)
水道水 1.4(4/22)
1.2(4/25)
ND(5/9)
表 2011年4月の茨城県や千葉県23人の母親の母乳から検出されたヨウ素131 海野,2012年
 放射線医学総合研究所 2014年5月20日-1024x873.jpg)
表 乳児の線量(急性摂取) 放射線医学総合研究所 2014年5月20日
授乳婦が1000,000ベクレルのヨウ素131を急性摂取していた場合、その乳児の甲状腺等価線量は1199ミリシーベルト、その授乳婦の甲状腺等価線量は432ミリシーベルトと評価できることを示している。
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表 授乳婦の線量(急性摂取) 放射線医学総合研究所 2014年5月20日
授乳婦の母乳から8ベクレル/kgのヨウ素131が測定された場合、その授乳婦のからだは1000,000ベクレルのヨウ素131を急性摂取していたと評価できることを表している。
一方、福島県県民健康調査検討委員会の甲状腺評価部会が採用した、国連科学委員会(USCEAR)2013年報告書では、プルームを吸入摂取したことによる甲状腺吸収線量はいわき市の8.49ミリシーベルトが最大であり、1歳児についてのプルームを吸入摂取したことによる甲状腺吸収線量はいわき市の17.76ミリシーベルトが最大です。さきの母乳から8ベクレル/kgもヨウ素131が出た母親が生活していた、茨城県水戸市で大人、1歳児がプルームを吸入摂取したことによる甲状腺吸収線量はそれぞれ0.30ミリシーベルト、0.50ミリシーベルトと著しく過小評価していることになります。
しかも、国連科学委員会(USCEAR)は2011年3月11日からの1年間の甲状腺吸収線量を評価している、としています。
<参考>国連科学委員会(USCEAR)2013年報告書
Annex A、 ATTACHMENT C―16、 Table C―16.2 の推定甲状腺総吸収線量(Total)
Annex A、ATTACHMENT C-18, Table C-18.5 の推定甲状腺総吸収線量(Total dose)
海野信也氏の母乳のヨウ素131は実測値です。放射線医学総合研究所の甲状腺等価線量の評価は、この実測値に基づき、乳児は330~1199ミリシーベルト、母親は119~432ミリシーベルトと評価したのです。国連科学委員会(USCEAR)の被ばく線量の推計は、実測値に基づかないモデルによるものであり、まったく信用できないことは明白です。
福島第一原発から放出された、ヨウ素131のプルームの風向きは2011年3月15日も刻一刻と変化していました。ですから、推計ではなく、住民の甲状腺モニタ等の内部被ばくデータのみが、被ばく線量の評価にとって、決定的に重要でした。そのデータを取らなかったのは、放射線医学総合研究所です。本来は原発事故など緊急被ばく医療を行うべき機関として設置され、莫大な予算をもらっているにもかかわらず。また、福島県民の被ばくは100ミリシーベルトを超えないと、福島県民に安定ヨウ素剤の配布・投与は必要ない、とアドバイスしたのも、放射線医学総合研究所です。
その放射線医学総合研究所の職員は自分たちについては、きちんと甲状腺モニタで内部被ばくを測っていました。
放射線医学総合研究所の栗原理氏は、2011年3月15日夜~3月18日に福島市に入りました。彼はもし3月15日に一度だけヨウ素131を急性摂取したとすると、彼はその1回に3,400ベクレル摂取しただろうと評価しています。先の茨城県水戸市の母親の推定1000,000ベクレルと比べてと桁違いに少ないことが分かります。
この資料には、栗原理氏が安定ヨウ素剤を服用していたか、は書かれていません。しかし、福島県立医科大学の医師、看護師は病院から逃げ出しそうになったため、医師、看護師とその家族には安定ヨウ素剤が配布され、全員飲んでいます。福島第一原発に投入された自衛隊員も現場に行く直前に安定ヨウ素剤を服用しています。緊急被ばく医療の専門家である、放射線医学総合研究所の職員が安定ヨウ素剤を服用することの抜きに、福島市に入るでしょうか?
この栗原理氏の1回3,400ベクレルのヨウ素131の急性摂取は、安定ヨウ素剤を服用していた場合の事例であり、安定ヨウ素剤を服用させてもらえなかった福島県民の急性摂取量ははるかに大きかったことが推測されます。
国連科学委員会(UNSCEAR)2013年報告書の内部被ばくの推計はまったくあてになりません。
の甲状腺測定結果は… 20131002-1024x988.jpg)
栗原理 Dose assessment of internal exposure Reconstruction of early internal dose to Fukushima residents 第2回放射線医学総合研究所シンポジウム 2013年1月27日
<参考>栗原理 Dose assessment of internal exposure Reconstruction of early internal dose to Fukushima residents 第2回放射線医学総合研究所シンポジウム 2013年1月27日