チェルノブイリ膀胱炎 東京新聞 2011年9月14日朝刊

チェルノブイリ膀胱炎 2011年9月14日 東京新聞朝刊

[初掲載]2011年10月22日

[解説]

 以下、東京新聞の記事で、汚染地域の単位がキュリー/km2となっていました。編集者がベクレル/m2の単位に換算しました。

 国連科学委員会(UNSCEAR)や国際放射線防護委員会(ICRP)、国際原子力機関(IAEA)は、チェルノブイリ原発事故における人々の健康被害は、ヨウ素131による小児甲状腺がんだけだ、と決めつけています。更に進んで、日本政府や福島県は、東京電力福島第一原発事故では小児甲状腺がんも増えていない、という立場を取っています。

 プルトニウム239、ストロンチウム90を始め、様々な核種(放射性物質の種類)が放出された中で、健康被害が小児甲状腺がんだけであるはずがありません。国連科学委員会(UNSCEAR)や国際放射線防護委員会(ICRP)、国際原子力機関(IAEA)は、核保有国の核兵器開発を推進し、原発を推進するための「科学」を作り上げてきた団体です。実権を握っているのはアメリカ原子力委員会(AEC)や現在のアメリカ原子力規制委員会(NRC)です。その利用している放射線と健康被害のデータの大本は、広島、長崎の被爆者を調査・研究したABCC(原子爆弾傷害調査委員会)のデータです。このABCCの被爆者データは、本来、被爆者と非被爆者とを比べて、放射線による発がんやさまざまな健康被害を調べるべきなのに、その計画を放棄し、広島市・長崎市で被ばくした「被爆者」と戦後広島市・長崎市に入市し生活した言わば「戦後の内部被ばく者」とを比べています。1シーベルトを超える高線量被ばくしないとがんを発症しないという結論や、広島市・長崎市の被爆者から生まれた子どもたちには遺伝的影響はなかったという結論は、この「被爆者」と「戦後の内部被ばく者」とを比べることによって生み出された虚構です。どちらも被ばくしているために、差が出づらくなっているのを利用して、「これくらいの放射線では健康被害は出ない」という学説を作り上げてきました。現在は、ABCCから放射線影響研究所が研究を引き継いでいます。しかし、放射線影響研究所も、「非被爆者」を対照群とするべきなのに、「戦後の内部被ばく者」を対照群としているため、誤った研究を続けています。

 レム(rem)からシーベルト(Sv)への被ばく線量の単位は、国際放射線防護委員会(ICRP)1977年勧告から変更されました。その際に「実効線量当量」という概念が導入されることで、更に、換算係数を決める際に恣意的な操作が可能になりました。事実、国際放射線防護委員会(ICRP)はこの1977年勧告で「実効線量当量」を導入することで、1965年勧告に比べ、原発建屋などの室内の空気を漂うマンガン54の濃度基準を13倍も緩くしました。ストロンチウム90についても、同様な手法で11.5倍も緩和されました。

<参考>中川保雄『<増補>放射線被曝の歴史―アメリカ原爆開発から福島原発事故まで』明石書店2011年11月20日 pp.156,157

 以下、ウクライナの医学者は日本の福島昭治氏とともに、ミリシーベルトで人々の放射線被ばくを評価するのではなく、その土地のセシウム137の汚染度と人々との健康被害との関係を研究しています。国連科学委員会(UNSCEAR)や国際放射線防護委員会(ICRP)、国際原子力機関(IAEA)などが使うミリシーベルトの概念は虚構です。唯一、関連がありうるのは、その土地の核種(放射能の種類)ごとの汚染度(ベクレル/m2)と健康被害との関係です。また、微粒子を吸い込んだ場合の内部被ばくによる健康被害はこの土地の放射能汚染との関連すらなく、放射能プルームを吸いこんだか、吸い込んでいないか、だけが関係します。

 以下、ミリシーベルトが一切出てこない貴重な研究報告の紹介記事をお読みください。

 2019年12月7日 編集者

[記事]

チェルノブイリ膀胱炎 2011年9月14日 東京新聞朝刊

 福島第一原発事故から半年。子どもの尿から放射性セシウムが検出するなど、子どもの尿から放射性セシウムが検出されるなど、福島県内では内部被ばくの危険にさらされている。チェルノブイリ原発事故で、がん発症の因果関係が認められたのは小児甲状腺がんのみだった。だが、土壌汚染地域からはセシウムの長期内部被ばくによる「チェルノブイリ膀胱(ぼうこう)炎」という症例の報告もある。提唱者で医学博士の福島昭治・日本バイオアッセイ研究センター所長(71)に聞いた。(小倉貞俊)

 「セシウム137は膀胱(ぼうこう)にたまり、尿として排せつされる。絶えず膀胱(ぼうこう)に尿が溜まっている前立腺肥大の患者なら『影響が出やすいのでは』と思ったんです」

 化学物質の健康被害を研究する同センター(神奈川県秦野市)で、福島氏は研究に取り組みきっかけを振り返った。

 1986年4月、旧ソ連(現ウクライナ)でチェルノブイリ原発事故が発生。10年後の1996年、大阪市立大学医学部第一病理学教授だった福島氏は、ウィーンで開かれた世界保健機関(WHO)の会議に出席した。その際、事故の健康被害を研究していたウクライナの教授らと意気投合し、共同研究を始めた。

 同国では、10万人当たりの膀胱(ぼうこう)がんの発症率が1986年に26.2人だったのが、1996年には36.1人と、約1.3倍に増加していた。

 原発事故で大量に放出されたセシウム137は土壌に付着し、放射能は30年で半減する。汚染されたほこりや食品などを口から体内に取り込むと、腎臓を通って尿から排せつされるのは40日から90日もかかる。

 「セシウムによる長期被ばくが原因ではないか」。そう考えていた福島氏らは、1994年から2006年に、前立腺肥大の手術で切断された膀胱(ぼうこう)の組織131例を分析し、その多くに異常な変化を見つけた。

 「顕微鏡で組織を見て、すぐに『これは今までに経験のない病変だ』と驚いた」と福島氏。

 通常は同じ大きさに整然と並んでいるはずの上皮の細胞がふぞろいな形に変化しており、上皮の下にある粘膜の層には液がしみ出して、繊維と血管が増えていた。

 福島氏らは、居住地別に患者を「高い放射線量地域」(一平方メートル当たり111万~18.5万ベクレル=放射能の強さを表す単位)、中間的な線量地域(同18.5万~1.85万ベクレル)、「非汚染地域」(同1.85万ベクレル以下)の3グループに区分。高線量と中間的線量の地域の約6割で、膀胱(ぼうこう)がんの前段階である「上皮内がん」を発見した。一方、非汚染地帯での発症はなかった=表参照。

 病変は、DNAでがんの発生を抑える「P53遺伝子」などが、セシウムのガンマ線などで変異したのが原因とみられた。福島氏らは「膀胱(ぼうこう)がん化する恐れが高い慢性の増殖性膀胱炎」と結論づけ、2004年に「チェルノブイリ膀胱炎」と命名した。

 その後、同国の膀胱(ぼうこう)がんの発症率は2005年には50.3人と、20年前の2倍近くまで増加した。「長期にわたる疫学的な調査を実施していれば、膀胱がんとの因果関係は分かったはず」と福島氏は力を込める。

 日本でも、チェルノブイリ膀胱炎のような現象が起こるのだろうか。

 先の3グループの患者中の尿中のセシウム濃度は1リットル当たり平均で約6.47ベクレル、中間的な線量地域が約1.23ベクレル、非汚染地域で約0.27ベクレルだった。

<デスクメモ>

 細胞にあるヒトの情報が書かれたDNA。人工放射線は人類の想定外だ。ぐるぐる巻きの染色体は被ばくで切られ傷づけられ、修復する能力もある。今やがん化と変異する遺伝子番号まで特定できる。「福島膀胱炎が起こさせない」と福島氏。まず“敵”を知ること。甲状腺がん以外も想定して備えたい。(呂)

<参考>

2013年 保養前・後の尿放射能分析結果 セシウム134セシウム137合計 チェルノブイリへのかけはし 2013年9月15日

<参考>

尿検査結果 地域による違い ちくりん舎 青木一政 2016年3月20日

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です